2026年10月11日日曜日

FTのスマート・カメラ市場の覇者交代記事を読んで

 Langley, W., ‘Technology, Chinese smart camera 

 rivals fight for dominance after GoPro’s decline’

    FT, 10 October 2026, p.11を読んで、勝手に考えたこと

                      渡辺幸男

 

 このFTの記事は、中国における競争の激しさ、そして技術革新の速さ、それを改めて実感させる記事であった。スマート・カメラ市場では、米国のGoProが市場を開拓し、新規市場の覇者として2023年までは、スマート・カメラ市場の過半を握っていたということである。それが、3年後の2026年の第2四半期には、中国深圳のメーカー、ドローンのDJIとInsta360が、それぞれグローバルなスマート・カメラ市場で73%と20%のシェアを得、先行していたはずのGoProは、シェア3%となってしまったということが、この記事で報告されている。

スマート・カメラのGoProも、ロボット掃除機という独自製品の開発そして生産で先行し、その後、中国メーカーに追い上げられ、中国メーカー群の一層の革新的製品の開発販売と低価格化で追い詰められ倒産したルンバのメーカー、 iRobotと同じ道を、歩んでいると、この記事は紹介している。

 

 改めて、新製品市場での中国メーカー群のキャッチアップ力と、その上での独自機能開発と低価格化との能力の強力さ、そしてそれをもたらす、中国企業間(この場合は、広東省の深圳という、中国のより狭い地域内の企業2社が、最終的には覇者を競うこととなったのだが)の新たに形成された市場への進出と、そこでの競争の激しさを感じる。そしてその結果は、中国メーカー群の製品機能開発と低価格化の両面での技術革新能力の凄さの展開そのものとなる。これを、EV開発で痛感したように、またもやスマート・カメラ開発でも痛感させる記事であった。

 

 すなわち、新たな新製品分野の形成とその成長の可能性、あるいはそれへの示唆が米欧のメーカーから与えられれば、中国企業は、既存の企業も新形成企業も一斉にその分野を目指し参入する。ここまでは、どこでもありそうなことだが、その後、中国企業は、流動的で巨大化する可能性を持つ中国国内市場を前提に、激しく競争し、中国企業間で中国内の巨大市場化そして企業巨大化可能な新興市場を巡って独自でかつ低価格な製品の開発そして生産を競い、その中から覇者が、低価格性と独自機能開発性の形成をもとに決まる。

その覇者は、その低価格を一方の柱としつつ、同時に独自機能性等を活かし、そのままグローバル市場へと展開する。結果、米欧市場で先行していた新製品分野開拓企業、この場合は、スマート・カメラのGoProということになるが、それをよってたかって押しつぶし、中国企業群が今度はグローバル市場の覇者となる。こんな姿が、またもや、スマート・カメラの展開を通しても見えてくる。

何よりも、中国市場の持つ巨大さと、それを利用し、テコにした新形成企業を含めた激しい競争、否、新興企業を軸にした競争の激しさ、これが、米欧の先進企業への急速なキャッチアップを可能にする担い手を生み出し選抜し、新興製品分野の世界市場での覇者を中国企業としてしまう。EV市場で見た姿が、ここでも再現している。もちろん、その担い手は変化し、特定の企業群に限定されうるものではない。「財閥」中心の他の東アジア諸国のグローバル化企業との大きな違いと言えるかもしれない。

 

 

 このようにして稼いだ多額の外貨、ドルを、2000年代までの中国政府は、米国債の購入に充ててきた。結果、米国の経常収支の大幅赤字をファイナンスする主要国の1つを形成してきた。それが、大きく変わった、近年、報道されているように中国は「金(gold)」を買い進めている。しかもこれまで巨大に貯めてきた米国債を2010年代以降、一方で、大量に売却し、保有残高を大幅に減らしつつ、金を買い集めている。かつて2000年代には、中国の米国債保有は日本を大幅に上回っていたが、それが中国保有の米国債の顕著な縮小ゆえに逆転した。中国政府の本格的なドル離れが始まったと言える。ドル経済圏からの離脱志向であり、独自な中国中心の経済圏、一帯一路形成志向の発揮、ないしは本格的形成の開始と言えるかもしれない。

 

 米国による世界経済の支配を離脱し、一帯一路政策を通して独自経済圏を形成するための序章が、ついに本格的に始まっているのかもしれない。欧州の素原料供給国化しつつあったロシアは、プーチンのウクライナ侵略開始により、その可能性は塞がれ、あるいは自ら塞ぎ、結果、中国の素原料供給国化しつつある。まさに中国経済圏形成の一環として組み込まれつつあるといえよう。「偉大なロシア帝国」復活は、夢のまた夢となり、ロシア経済は、中国経済圏の1構成要素、「偉大な中華経済圏」の1個の一次原材料供給国に落ちぶれつつある。

 そして今、ドイツの工業が衰退し、EU市場それ自体が、中国新興企業群の直接投資に蹂躙される可能性が出てきた。VWの中国市場での敗退、そしてドイツ国内生産工場の閉鎖は、それを象徴する出来事であろう。中国市場の本格形成・巨大化過程で、大いに儲け、一時は世界最大の乗用車メーカーとなったVW、そのVWの現在のドイツ国内工場の大量閉鎖の状況は、まさに、それを示している。これは、中国市場を自らの発展・繁栄のために活用してきたEU企業群が、中国新興企業との中国国内市場での競争に敗れ、今やEU市場内でも敗退する可能性が出てきたことを象徴する出来事といえよう。何せ、あのドイツの資本財輸出入収支が、対中国収支で赤字に転換したのであるから。

 ロシアが一次原材料供給国として、EU市場から離れ、中国市場・経済のそれになりつつあるのに続き、EUそれ自体が、中国の周辺市場、中国新興企業の投資先経済になりつつあるのではないか、とも思える。ますます、中国経済圏、一帯一路経済圏が実現するのではないかと思えてくる。米国経済を排除し、米国経済圏を矮小化させながら。

そして、トランプ大統領は、その中国の動きを真正面から支援しているとも思える。カナダやメキシコとさえ、米国経済との経済的つながりを破壊しているのだから。

 

 

 スマート・カメラ市場で、中国深圳の2社が、GoProにとって変わって、覇者になることを競っている、という記事から、勝手に発想を広げた。なお、ここで取り上げたトピックスの多くは、すでにこのブログで取り上げたことである。論文ではなく、ブログということなので、典拠を具体的に示さなかったが、これらも、多くは、FTの記事によっている。

0 件のコメント: