2026年9月9日水曜日

9月9日 FT, Adam Tooze, ‘ ‘Chimerica’ is now a chimera and global stability is the victim’ を読んで

 Adam Tooze, ‘ ‘Chimerica is now a  chimera           and global stability is the victim’   

FT, 8 Sept. 2026, p.17 ‘Opinion’掲載

 を読んで

 

渡辺幸男

 

 この論考は、私にとって強烈であった。ここのところ、ここでも描かれている中国のドル離れの進展が、大変気になっていたが、それを正面から議論する議論は、FTでもあまり見かけなかったような気がする。それが、この論考は、まさに正面から中国のドル離れと、その当面の意味を述べている。

 これまで、2000年代の世界経済は、米国の巨大な赤字垂れ流しと、経常収支大幅黒字国の中国(そして日本)の米国国債の購入を通してのドル資産蓄積を通して、全体的なバランスが取れていた。この点を、Tooze氏も強調している。その上で、Tooze氏が強調しているのは、そのあり方が、今、大きく変わってきたということである。

 アメリカのドル垂れ流しは相変わらずであり、トランプ政権下でも酷くなる一方であるが、その受け皿となり、曲がりなりにも、4半世紀近くに渡り、世界経済の安定的循環を可能にしてきた、米国経常収支赤字の受け皿としての中国の姿勢が大きく変わったということである。中国の黒字は米国との関連ではなく、欧州とのそれとなったというのである。

結果、「中国は外貨を蓄積し続け、年間1兆ドルにまでなっているが、その外貨の蓄積は、2000年代と大きく異なり、スムーズに米国国債市場へと流れなくなった」と言うのである。米国政府は米国債を発行し続けており、その買い手を当面は見つけているが、それは利潤動機の投資家が、ますます多くを手にしているということである。既存の米国との貿易関係の継続に大きな意味を見出していたような政府、まさに中国政府がそうであったのだが、そうではなく、あくまでも(短期的)利潤動機に基づいて、投資家が大量に米国債を、当面購入し、米国の経常赤字がファイナンスされているというのである。

このウォール・ストリートによる対応により、米国経済がそれなりに均衡を、中・長期的に安定的に維持することが、ますます難しくならざるを得ないと、Tooze氏はいっている。

これまでの‘Chimerica’というビジョンは、マクロ経済的に、それなりに成り立つものであった。しかし、それが崩れ、短期的な思惑でも動くようになっている。

 このように、Tooze氏は述べている。

 

 まさに、私が気になっていた、中国の米国債離れの論理と、それが持つ意味を、正面から直接的に確認しているのが、本論考である。

今、米国との貿易、その大幅黒字を通しての世界経済の安定的拡大が第一であった中国に代わって、米国債の中核的な買い手として、新たな1つの中心になっているのが、短期的な利益にも大きく動かされる、ヘッジ・ファンドであると指摘しているのである。

2000年代以降、毎年、日本と中国が米国債を大きく買い越すことで、世界経済のバランスは、米国の巨大な経常収支の赤字にもかかわらず、維持されてきた。そのバランスの担い手の主要な1つが、中国政府からヘッジ・ファンドのような投資家群に移った、これを指摘した論考である。その帰結は、日中が支えていた米国の経常収支赤字、そのバランスが、いつ崩れてもおかしくないことを意味する。バランスを支えること自体に意味を見出していた、そしてそのような意味を見出して当然と思われる日中から、最も主要な1国、中国が脱落し、それに代わったのが「投資家群」、ということである。

このことが、何を意味するか。環境次第で、その行動が大きく変わる主体が、一方の担い手の主要な1つとなった、ということであろう。

米国の巨大な赤字垂れ流しと日本のそれの尻拭いは変わらないとしても、もう1つの尻拭いをしていた経済、最も強大であった尻拭い国の中国が、その役割から離脱した、あるいは離脱しつつあるというのである。市場本来の機能が、本格的に機能し始める可能性、そして、それゆえ、世界経済の大変動が生じる可能性が、本格的に始動し始めたといえよう。

すなわち、アメリカ国債の大暴落の可能性、これが現実化し始めたとも言える。2008年のリーマン・ショックは、アメリカ経済内の不均衡が世界経済に巨大なショックを与えたものといえる。だが、世界経済の再生産の枠組みそれ自体は、大きく変わることがなく、米中の関係にも変化がなく、中国経済が下支えしながら、米国経済の大幅経常収支赤字をそのまま支え続ける形で、世界経済は新たな発展の道を歩み始めることができた。

しかし、今、世界経済の基本的なバランスそのものが大きく崩れる可能性が生じた。バランスが崩れた後の再建の道、今回の構造変化によって世界経済が行き詰まったときの後のそれは、どのような形で、どのように用意されるのであろうか。私には見えない。

FTのこの論考は、中国経済のアメリカ経済離れ、それが持つ深刻な意味、それを暴露した論考といえよう。それでも、アメリカ経済は経常収支赤字を、米国債を、買い支えること自体に利益を感じていた中国政府ではなく、普通の投資家群に売ることで、ファイナンスし続けようとしている。そして、トランプ米国大統領は自らが勝手に始めたイラン戦争をやめられず、米国経済の経常赤字の一層の巨大化に貢献し続けている。それどころの状況ではないはずなのに。

 

中国政府が売りに出し、持分を大幅に減らしている米国債、他方、英国ロンドン市場で大量に売られながら買われもしている米国債は、各国の政府ではなく投資家群が購入しているようである。中国政府が密かに買い戻しているのではないかと思った私は、極めて浅慮であった。また、いまだに膨大に米国債を抱えている日本政府は、大損の可能性にさらされていることにもなる。リーマン・ショックのときは、日本・中国両政府ともに、米国債を大量売却することはなかった。しかし、今、中国政府は米国債を大量に売り(抜け)、持ち高を大幅に減らしつつあり、同時に大量に金を買っている。

日本政府は・・・。日本政府は、米国債暴落の泥を被る覚悟をし、米国と心中するつもりなのであろうか。あるいは、日本一国だけで、米国債を買い支えることができると、踏んでいるのであろうか・・・。

2026年8月25日火曜日

8月25日 我が家の庭の鯉の池の池仕舞い

 我が家の庭の鯉の池の池仕舞い

 渡辺幸男

 

 今朝、庭の池、二宮に引っ越してきた時に作り、50年余を経過した庭の鯉の池の池仕舞いを決意しました。



                              



今、私は78歳、中学生の時、川崎に住んでいた頃から、庭で鯉と金魚を飼い始めました。1954年に亡くなった祖父、幸次郎が、生前、金魚を飼い、その産卵、孵化、そして稚魚からの飼育を楽しんでいたのをみて、私も、やってみたくなり、その希望を中学生の時にかなえ始め、当時住んでいた川崎の家の庭に小さな池を自分で作ったのが、始まりです。今から65年ぐらい前のことです。川崎の家の庭を大きく作り変えた時に、本格的な池を、父に願って、作ってもらいました。

 その後、母の希望もあり、今住んでいる二宮の家を、1975年に建てました。その時に同時に庭も作りました。その際、父に頼み、本格的な池を作ってもらいました。その後、何回か水の浄化循環装置等を入れ替え、池自体の改修もしてきましたが、基本的に、今までの51年間、今も住んでいる家の庭の池として維持してきました。

 私は、引っ越した翌年、慶應義塾大学に就職し、結婚をし、二宮に住んで51年間、この家に住み続け、五人の子供を育て、子供たちは皆独立し、それぞれ世帯を持ちました。

 その間の私の趣味の1つは、池での金魚や鯉の育成(と繁殖)であり、これをずっと続けてきました。途中からは、金魚はやめ、緋鯉のみの池にしましたが。そして、今、池を泳いでいる鯉は20匹ほどですが、かなり巨大化し、6070センチぐらいのものも数匹おります。そして、池を泳いでいる緋鯉は、全て、私が孵化させた鯉の生き残りです。孵化の最後は2010年代半ばなので、すでに一番若い鯉で10歳ぐらいになっています。この鯉の姿は、このブログでも時々紹介しています。先月にもその姿の一端を紹介しました。

 

 池を作って50年余、何回か、修繕を重ね、水の浄化循環装置の仕組みを変える等で、大きな修繕もしてきました。ただ、基本的な池の形態を変えることなく、多少の水漏れがする程度で、これまでの50年間、鯉を多数育て、また、残念ながら、何匹も殺してきました。多い時は、もっと小さめの鯉が70

匹ぐらい、泳いでいたこともあります。ただ、途絶えることなく、鯉を飼ってきました。1980年代半ばに、私が2年間イギリスに家族で留学した時には、いまはなき父が面倒を見てくれ、また私が71歳の時に4か月間入院した時には、妻が面倒を見てくれ、無事、鯉達は泳いでいました。

 そして、いま、私はもうすぐ、80歳、かなり、池の鯉の世話がしんどくなってきていました。しかし、好きな鯉の世話なので、それなりに面倒を見、鯉達、20匹余、巨大化したのも含め、生き残っています。ただ、池も老朽化し、池の石組みとコンクリートの隙間が、諸所でできてきているようで、水漏れがかなりひどくなり、毎日、朝数十分、水道の水を全開にして足し水する必要が出てきていました。

 そこに、先日の私の住む神奈川県西部でも震度4であった地震の発生です。これで、池の水漏れがかなりひどくなりました。今朝、いつも以上に水が漏れ、池の水位が下がってしまったため、池に設置してあるポンプ2台のうちの1つ、循環用のポンプが空回りし、焼き切れ、止まってしまいました。当面は、もう1つのポンプ、滝に水を循環し、水質浄化に使っているポンプは健在なので、鯉達は多分大丈夫だと思うのですが・・・。

 

 さて、どうしたものか。池のひどくなった水漏れを防ぐためには、本格的な改修工事が必要です。本格的な改修工事を行っても、私自身が鯉の面倒をいつまで見ることができるのか、改めて考えてしまいました。

 実は、今回のポンプの故障が起きる、かなり前から、池仕舞いをいつしたら良いかも、かなり抽象的にですが、考え始めていました。そして、今朝のポンプの故障です。そして、ついに、池仕舞いを決意した次第です。

 

 この池仕舞いについて、早速、妻に話し、子供達には、ラインで伝え、決意を固めることにしました。このブログでの池仕舞いに取り掛かることの報告も、決意を固めるための一環とも言えます。

 池仕舞いをするはするで、池の鯉の行き先、池の解体、そして池のない庭の庭づくり、やるべきことは多々あります。ただ、それが完了すれば、私自身による鯉の世話、私ができなくなったのちの鯉の世話の心配をする必要がなくなることになるだけは、確かです。自身の人生に後腐れをなくするための1つだと思って、思い切って(多分)、決意しました。

 

 これを書いて、決意宣言を表明し、後戻りできなくしました。

2026年7月27日月曜日

7月27日 ロシアの対ウクライナ侵略による 非工業化と最先端工業化への分岐

旧ソ連の流れを汲むロシアの工業と

ウクライナの工業の今後 

ロシアの対ウクライナ侵略による

    非工業化と最先端工業化への分岐

 

そして、中国向け一次産品供給周辺国ロシアへと、

   欧州先端工業化の主導国ウクライナへの分岐か?

 

渡辺幸男

 

ロシアの非工業化

ロシアの工業がどう展開するかは、ここ数年の私の「課題」であった。偉大なロシア「帝国」の再建を夢見るプーチン大統領のロシアによるウクライナ侵略の足下で、ロシアの経済はどうなり、その中核を占めるであろう産業、特に工業はどうなっているのであろうか。これが、工業経済論の視点から中小企業を考えてきたかつての研究者、私、渡辺幸男の近年の「研究」「課題」である。

 日本の工業発展の論理を、私なりに理解したつもりになり、また2000年代には中国の工業発展について、それなりの結論を手にし、それぞれ単著を書いた。その後、最も気になってきたのが、ロシアの工業の現状である。

 私は、ロシアの工業の近年の展開を、「非工業化」、(それなりに先端的であった工業が衰退し、一次産品中心のそれなりに豊かな国という意味でだが)、この概念で総括できると考え、ブログにその根拠を私なりに述べてきた。

 

 しかし、具体的なロシア工業の展開についての紹介と分析は、少なくとも日本語での情報としては、極めて限られている。確かに、マクロの数字、例えば工業生産指数のようなものは、それなりに紹介されている。それによれば、ウクライナ侵略が本格化したのち、かなり伸びたものが、近年停滞気味となっていると言った状況のようである。しかし、そのような工業全体の生産量の推移の数字からは、その内実、どのような工業部門のどのような技術に裏付けられ、世界市場でどう評価される工業分野の製品の生産が伸びているのか、と言った情報は、全く伝わってこない。

 同時に、中国から近年伝わってくる、工業の最先端分野での新規注目企業の登場というようなことも、ロシアからはほとんど聞こえてこない。

 

 そのロシアの工業生産が、ウクライナ侵略により軍需があり、豊富な一次産品の輸出が、依然としてそれなりに可能であるにもかかわらず、ここにきて、停滞してきているという、マクロの数字が出てきている。これをどう位置付けることができるか、どう読むべきか、興味深い論点ではある。

 1つには、一次産品の輸出だけでは、ウクライナ侵略のための軍需生産に必要な財や資本財の輸入資金を賄うのに不十分になった、という可能性が示唆される。「非工業化」が進んだ、極端に軍需製品、その完成品の生産のみがロシア国内で可能となっていると思われるロシアゆえに、部材の輸入に必要な外貨が不足する、すなわち部材獲得に必要な資金を、元来は豊富な一次産品の輸出をもってしても、十分には調達できなくなってきた、ということを示唆しているのかもしれない。軍需生産の対する需要は、ウクライナ侵略のための軍機の消耗ゆえに、ほぼ限りなく存在すると言えるのであるから。

 

ウクライナのドローン産業の最先端工業化

 それに対して、ロシアに侵略されたウクライナが、ここにきて戦時経済下で興味深い動きを示している。北海道大学の服部倫卓氏の議論を紹介する形で、このブログでも取り上げたが、かつてロシアと同様に、旧ソ連の遺産、非競争的国有大企業中心のそれなりの先端工業であり、コンコルドスキーと揶揄されたように、欧米の先端工業製品を追いかけ、その真似を国有大企業中心に進める、イノベーションを産まない、国際競争力を持ち得ない「先端工業化」の実現であった旧ソ連の伝統を引き継いだウクライナの工業出身の人材が、ロシアの侵略下で、兵器生産において、新たな本格的な最先端工業的展開を、ベンチャー企業の簇生を通して、示し始めたというのである。

 それがウクライナでの兵器としてのドローンの独自な発展である。いかにロシアに対抗していくかの模索の過程で、今もロシアで行われているような、旧来の他国で開発されたドローンの利用ではなく、戦略の必要に合わせ新たに独自製品を開発するという、独自の模索が、多様な主体のもとで社会的分業を活かし行われ始めているようである。結果、他国にみない今の対ロシア戦に必要な独自の機能を持つドローンを、旧国有大企業ではなく、多数の新興ベンチャー企業が中心となって、水平的そして垂直的社会的分業を活かし開発している、というのである。

 

 戦争を契機として、戦争初期の厳しい状況を持ち堪えた、被侵略国であるウクライナが、危機的状況の中で、新たなニーズに応える形で、新たな開発主体を生み出し、その主体群が旧ソ連以来の技術者達を活かし、多様な先端ドローンを開発し、それが対ロシア戦線での新たな可能性を、ウクライナにもたらしているというのである。

 

 大いなる歴史の皮肉というべきなのであろうか。ウクライナの自立化を嫌い、ロシアへの属国化を目指して、傀儡政権を樹立すべく侵略を開始したプーチン大統領、結果は、侵略者プーチンの思惑と大きく外れた。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ベラルーシのルカシェンコ大統領のようにプーチンに屈服することもなく、また傀儡政権への交代も生じず、全面的な戦争となった。このロシアによるウクライナ侵略を、ウクライナが4年以上持ちこたえたことで、旧ソ連以来、ロシアと共有していたウクライナの工業のあり方を、全面的に変えることとなったと、言えそうなのである。

チャンピオン企業をまずは選択し、その企業の育成、最先端工業化に努めてきた欧州諸国、そのほとんどは最先端工業化に失敗したと、私には思える。ウクライナでのベンチャー中心に新たな最先端工業形成を主体的に行っていくことのできる工業企業群の形成は、そのような欧州にとって、新しい現象といえよう。欧州における、新たな本格的最先端工業化の新たな担い手群の形成にもつながる現象とも見えてくる。中長期的には、この経験が、ウクライナ経済の欧州化の中で、全く新しい意味を持ち始め、EU市場でのウクライナ工業の新たな展開を可能するように見えてくる。そして、今や、ドイツを含め、中国工業企業の進出に悩む、欧州工業全体の再活性化にもつながるのではないか、とも思えてくる。

 

プーチンのウクライナ侵略が生んだ皮肉な結果である。旧ソ連工業の流れを汲む国有大企業中心だった、欧米の先端工業に追随するだけだったウクライナ工業が、欧州工業最先端化の担い手として、その欧州工業先端化の可能性を生み出す牽引者となるかもしれないのである。

「非工業化」の道を突き進むロシア工業、それに対する欧州の最先端工業化の牽引役となりつつあるウクライナ工業、その別れ道が、今作られつつあると、私には思えてならない。どうであろうか。5年先を見てみたい。

  

2026年7月16日木曜日

7月16日 我が家の緋鯉達

   我が家の巨大化した鯉         

滝への水の循環を利用した浄水機能が

順調に機能し、

ここのところ、我が家の池の水は極めて綺麗で、緋鯉が鮮やか

 

餌を与えた後、餌を探して

鯉が動き回っている。


の周りには草が生い茂り、

だいぶ池が覆われてはいるが、

 

また、青鷺よけのネットが、

だいぶ古くなり見場が悪くなっているが、

鯉達は極めて元気


これらの鯉は、全て私が、我が家で孵した鯉、

一番若いので、

7年前に4か月入院した時にすでに数歳になっていたので、

少なくとも、10年近くは経っている。

大きいのは、30年以上。

長生きな鯉、私が最後まで面倒を見ることは、

難しそう。

7月16日  トランプ大統領の対中国政策の持つ意味

 トランプ大統領の対中国政策は、

中国工業の自立的最先端工業化実現の

実質促進役?

−トランプ米大統領の中国への米国先端工業製品や技術の

輸出抑制策の持つ意味−

渡辺幸男

 

 中国の工業の現状は、世界的な基準で見た場合、まだ最先端の工業とはいえないが、現代工業の先端的部分の多くが、すでに中国内に存在している状況といえよう。その中国工業の置かれた環境としては、まずは、中国国内市場の巨大さがあり、その市場が成長しているという特徴がある。また、在中国の中国人技術者層の厚さもその特徴といえよう。さらに重要なのが、中国工業での激しい市場競争の存在であり、多様な新規市場参入企業の多さである。

 ここで議論したいことは、このような中国市場を前提するとき、最先端技術の米国からの、そして米国市場向けの比重の多い他国の企業からの技術輸出の抑制策といったトランプ大統領の対中国政策は、中長期的に見ると、中国工業企業の最先端技術化への、劇薬的な自立化促進剤となりそうである、という点である。トランプ大統領の意図とは、全く正反対の効果を生む可能性を指摘したい。 

 中国の巨大な国内市場とともに、今注目すべきは、中国工業企業にとっての市場となりつつあり、かつ、巨大になりつつあるBRICS市場の存在とその成長、そこへの中国企業の輸出拡大と直接投資の増大である。EU市場へも、米国市場と異なり、中国企業進出、輸出と直接投資が顕著に増加している。

 

 このような国際環境条件下で、トランプ大統領は、米国等の最先端工業品や最先端技術について対中国輸出規制を積極的に行っている。それを通して中国工業が、最先端工業化することを抑えようとしている。対中国輸出規制である。この輸出規制の持つ、中国工業のいっそうの先端化に対しての意味が、改めて問われるのである。

 

日本の工業の先端化と米国との対立、その結果の評価、そして中国工業にとっての意味

日本工業は、1980年代、日本の乗用車産業や半導体等の当時の先端工業で工業に対する優位を形成した。そのために、米国政府は、日系先端工業企業群に対米直接投資を促すこととなった。この時の日系先端企業にとっての外的条件の特徴の1つは、日系企業にとっての米国市場の圧倒的な必要性の存在であった。当時の日系企業は、トヨタ自動車を先頭に、米国市場抜きにしては、成長展望を見通せなかった。そのこともあり、積極的に対米直接投資をし、米国政府の政策意図に対応した。

 

中国の今、中国系企業にとっては、米国市場は重要な市場ではある。が、成長展望を持つために不可欠な市場ではなくなっている。この点が1980年代の日系企業との大きな差異の1つでもあると、私は見ている。何よりも中国国内市場は巨大で、開拓余地が依然として十分にある市場である。中国に立地する企業は、2010年代に、もっぱら中国国内市場に依存して、世界最大の乗用車生産規模を実現できたのである。輸出依存を通して世界的規模の企業を初めて実現できた日系企業とは、大きく異なる存立環境と言える。

巨大化した中国市場に加えるに、成長するBRICS市場がある。本来的には、中国企業にとっては、中国国内(C)を除く、BRIS市場というべき市場がある。巨大市場として顕在化しつつあるインドを中心としたBRIS市場と中国国内市場という、超巨大市場、乗用車でいえば、米国市場を大きく上回るような巨大市場を前提に、たとえ、米国市場への進出を拒絶されたとしても、最先端工業化が先端工業大企業の多数形成と激しい競争の状況下で可能であるような、それを多様に実現できるような場、巨大市場が、米国市場を除いたとしても、存在するようになったのである。これらこそ、1980年代日本工業とは大きく異なる、中国企業にとっての最先端工業化のための独自の市場条件の存在といえる。

 すなわち、中国工業では多様な先端工業大企業群の形成が、中国国内の激しい競争を通して可能であり、それらの企業群が活躍できる国内と米国以外の国外巨大市場、BR IS市場、そしてEU市場を前提に、その結果として形成されたのが、今の中国の先端工業であり先端工業企業なのである。

 そのような先端工業中国企業の象徴的存在が、華為(ファーウェイ)であろう。市場的に、かつ技術的に、米国から締め出されながら、中国市場を核に中国での技術開発を軸にして、当該分野での世界的な最先端工業企業の地位を確立しつつあると言える。

 このような中国企業群の先端工業での独自形成と、中国市場の持つ大きさの先端工業企業群形成における有効性を象徴的に示すものが、乗用車産業とともに、山塞携帯から始まる中国でのスマホの多様な独自発展とグローバル企業群の形成であろう。輸入技術を前提にしながら、国内市場の独自性と大きさを活かし、現代工業レベルで、競争的な多数の先端工業大企業群を、国内市場を中心に、当該分野で形成し実現することが可能なのが、現代中国経済であり、現代中国工業なのである。

その背景には、中国経済における多様な企業の参入を含めた、当該分野での大企業化が進行した場合でも、多様な企業による多数の企業の競争が維持される状況がある。国レベルの政府による、1ないし少数のチャンピオン企業の選考、それへの集中投資をし、グローバルな先端工業企業を育成しようという政策とは、全く異なる、多様な主体による、多様な企業への育成策を背景とした、育成下における育成される企業間での激しい競争、淘汰の進行状況の存在がある。

市場に任せるだけではなく、多大な政治的介入があるが、それが一点ないしは特定少数企業集中ではなく、多様な主体の援助を受けた多様かつ多数の企業主体の育成、形成、これこそが、中国先端産業発展政策の特徴といえる。計画経済下の特定国有巨大企業を通しての先端工業化とは、180度方向の異なる競争的環境を維持した産業育成政策とも言える。そしてそれが、巨大化した国内市場の形成と結びつき、BRIS市場やEU市場をも取り込んで、競争的な先端工業化を実現したのが今の中国先端工業とその企業群といえる。

 故に、トランプ大統領が、アメリカ市場から中国系先端企業群をたとえ締め出し、米国系企業からの最先端技術の提供を阻止することができても、それらは、米国市場にもっぱら依存せざるをえないようなことがなく、国内市場や他市場を中心に自立的に発展可能となる。少なくとも中長期的には、1980年代の日系企業と米国市場との関係とは、決定的に異なることになる。

 

 こう見てくると、トランプ大統領の対中国向けの最先端工業形成抑止政策は、短期的には抑止効果を持つかもしれないが、中長期的には、中国の先端工業の自立性を一層高め、独自の工業経済圏を米国市場外につくり出すように機能する、このように見えてくる。覇権国家、世界の最重要市場として最先端工業化に不可欠な市場と、米国市場を実質的に見ていると思われるトランプ大統領の単純な意図とは全く異なる意義を、トランプ大統領の政策は持ち、そして異なる結果をもたらすものと言えそうである。

 あるいは、トランプ大統領の意図は、初めから、自分の任期中での中国企業の最先端化を抑止すれば、それでも十分意味があると思っているのかもしれないが・・・。

 

先端的な技術を輸入し、先端工業に近づいた中国工業企業と工業経済、その状況を前提に、巨大な独自な国内市場と成長する巨大な多様なBRIS市場を活かし、さらなる発展を遂げようとした時、トランプ大統領による米国企業からの最先端工業製品や最先端技術導入の困難化が生じた。

これを契機に、自立的な先端工業発展を、多様な多数の担い手の激しい競争のもとで、巨大国内市場と米国以外の巨大化する成長市場に向けて、先端工業製品を開発し、自らの自立的最先端工業化を実現しつつあるのが中国工業経済と私は見たい。そのあり方、変化をもたらしたのが、何よりもトランプ大統領の対中国先端工業化抑止政策であると言えそうである。

 

 プーチン大統領のロシア帝国復活の夢の暴走が、ウクライナ侵略戦争とその長期化をうみ、ロシア経済の非工業化をいっそう促進させている。そして、中国に対する一次原料供給国としての再生産の道をロシア経済に方向付けた。それと対を成す、短期的願望実現努力が長期的失敗をもたらしつつある好例が、トランプ大統領の対中国最先端工業化抑止政策といえよう。

古希を過ぎた70歳代の巨大国のトップ、トランプ大統領、プーチン大統領、習主席の三人の中で、80歳代を迎えて最後にほくそ笑むのは、習主席ということか・・・

 

 

 以上の原稿を書いている最中に、中国工業の最先端化を考える上で、大変、興味深い記事を、FTで見たので、それを簡単に紹介し、それが、何故、私にとって興味深いか、以下で述べてみたい。

 

FT ‘China memory-chip maker CXMT

 boosted by Apple tests and local AI supply chain push‘ ( 14 July 2026, p.7

という記事である。

小見出しに、‘Global shortage of wafer capacity triggers sharp turnaround of 

state-backed group’s fortunes in run-up to blockbuster IPO’とある。

 

 この記事では、安徽省合肥市等の出資を受けた無名な中国の半導体メモリー・メーカーCXMT*の製造する半導体汎用製品DRAMが、Apple社の中国市場向けのデバイス用の部品としての採用に向け、テストされているという情報が告げられている。このCXMTという半導体メモリー・メーカーをめぐる記事である。この会社の名前を、私は全く知らなかった。知らなかったのは、単に私の勉強不足だけではなく、この会社自体が2016年創業と極めて新しく、急激に注目されるようになったためのようである。

記事によれば、安徽省合肥市を中心とし、合肥市等の地方政府に支援された、シリコンバレー帰りの中国系研究者が2016年に創業した、新興のDRAMメーカーのようである。そして、サムスン、SKハイニックス、マイクロンの3社によって独占されているDRAM市場で、本格的に世界第4位の新興メーカーとして急激に規模を拡大しているDRAMメーカーが、安徽省を中心拠点とするCXMTという企業だというのである。これまでの10年間で540万人民元の累積赤字を記録していた同社は、今年の第一四半期だけで、3700万人民元の黒字を出したとのことである。そして、昨年世界のDRAM市場の11%を占め、2028年までには、合肥市、上海市、北京市で工場が新設され、15%の世界シェアとなる見込みだと書かれている。

この記事でさらに興味深いのは、CXMTは米国の禁輸リストに掲載されていないことで、そのため、ASML社のEUV露光装置を購入可能であったとのことである。同社は、15の(地方政府系の)政府系投資ファンドの出資を受けており、地方政府が広大な工場用地を格安で提供し、融資や補助金も提供していることで、産業集積を自らの周りに形成することができている、とのことである。

累積赤字を抱えた新興の先端半導体メーカーが存在でき、それらは、手厚い支援を受けており、時宜に恵まれれば、一挙に黒字化し、グローバル水準の企業への道が開かれる可能性が、実際に存在することを示唆するものといえる。

これまでの中国のチャンピオン企業に対し、トランプ大統領はEUV露光装置の中国企業への売却をASMLに禁じたが、CXMTはそのリストには乗らない、全く無名の新規創業企業のようで、ここでは、結果的に規制が無意味になり、先端の生産装置を導入できたようである。中国における、激しい市場競争(この場合は、既存の米韓のグローバル企業3社だが)と地方政府支援を受けた新規創業企業の多様かつ多数の存在が、新生企業の発展可能性の余地を生むのが現代の中国経済であるということであろう。そのような中国経済の環境が、CXMTDRAM市場での急成長、アップル社にも注目されるような企業の形成を可能としたとも言える。

このCXMTの例は、中国経済市場での、新規創業の活発さ、それを支える地方政府の存在、そして巨大な国内市場、既存企業との激しい競争(この場合は米韓の巨大3社)、それらが、次世代の産業発展の新たな担い手群を結果として生み出す、このような循環の中国経済での存在を示す一例といえよう。

この企業を通して見えてくる第一のことは、中国で成長する世界市場に挑戦する最先端分野の新規企業は、中央政府に支援されたナショナル・チャンピオン企業ではない、ということであろう。同時に、安徽省の省都合肥市という地方政府レベルによって設立された企業なのである。

そのような企業が、世界的に完全に寡占化したDRAM市場に挑戦する新規創業企業として、シリコンバレー帰りの中国研究者を軸に創業され、それが10年という年月で、中国内の内需中心のはずにもかかわらず、グローバルシェアが10%以上になることを可能とする企業へと成長できるということは、それを可能にするだけの巨大な国内市場が、中国には存在するということになる。当然ながら、いくら中国系企業が存在しない巨大市場であるといえ、無名の新興企業が10年という年月で、世界シェアが10%を超す状況は、いかに中国国内のDRAM市場が大きいかを示すものといえよう。

また、それを一地方政府が支援し、新興の私企業が担う。このような姿は、中国ならではの新規創業のあり方を表しているともいえよう。

同時に、巨大な三大メーカーが存在し、中国企業も現状では、それらから順調に調達できているのであるが、DRAMという汎用的半導体についても、中国国内の利用企業にとって、その先端的な部分の調達がネックになる可能性があり、国内企業による生産と、そこからの調達を望む中国系企業の想いが、かなり存在していると言えるかもしれない。その意味では、トランプ大統領の中国向け輸出規制が、その成長の要因の1つとなっていることを示唆する事例の1つかもしれないと、私には思えてくる。

 

*ネットで調べたところ、CXMTChangXin Memory Technologies)とは、「長鑫科技集団股份有限公司」が中国名であり、2016年に設立された中国で唯一のメモリー・メーカーであるようだ。それゆえ、このブログで私が強調した中国企業間の激しい競争の存在とは、無縁な企業であると言える。同時に、創業当初より、中国市場を含めた世界市場を支配する巨大な寡占DRAMメーカー3社の牙城に挑み、その一角を崩すことに挑戦している、中国内の安徽省合肥市という地方政府の支援を受けた、競争的な企業と言えるのではないか。

 

 

2026年7月1日水曜日

7月1日 6月末から7月初めの我が家の花々

 6月末から7月初めの我が家の花々

サンパラソルの花が咲き始めました。

去年は今一つでしたが、

今年はたくさん賑やかに咲きそうです。

 

メダカの水槽で育てた、

一昨年秋に、知人からいただいた睡蓮、

昨夏は一輪も咲かなかったのですが、

今年はいくつもの花を楽しめそうです。

 



君子蘭の鉢にタネがこぼれ、

勝手に咲き始めたインパチェンス、

これも、賑やかです。

 

そしていつものサルビア、

今年の地植えの庭のサルビア、

かなり密集して植えたのですが、

賑やかに咲き始めました。

花々が、

今年の暑い夏を無事越せるかどうか、

気になるところです。

2026年6月30日火曜日

6月30日(7月1日改訂) 服部倫卓著 「ウクライナのドローン大攻勢を支える「遺産」と「革新」」を読んで

 服部倫卓著

 「ウクライナのドローン大攻勢を支える

「遺産」と「革新」」

Yahoo!ニュース、2026629日) を読んで

 

渡辺幸男

 

 この服部氏の書いた記事の興味深い点は、旧ソ連時代の技術的遺産が、現代のウクライナの革新的ドローン生産に活かされていることとともに、その担い手企業は、旧ソ連時代の国有大企業ではなく、ロシアによる侵略戦争の戦時下で新たに生まれたベンチャー企業群であるという指摘である。

 技術的には、旧ソ連のアントノフと言った巨大国有企業の持っていた技術、そこでの技術者が活かされているが、それらの技術者が活躍し技術革新を行っている場は、旧国有巨大企業ではない。そうではなく、新たに生まれた多様な多数のベンチャー企業である。これらのベンチャーが多様に生まれ、かつての巨大国有企業のような垂直統合型巨大企業ではなく、各企業が専門化し、企業群として多様な水平・垂直型の社会的分業関係を形成しながら、革新的なドローンを多様に生み出しているのが、今のウクライナのドローン産業である、と服部氏は指摘している。旧ソ連の工業生産体制からの様変わりである。

 旧ソ連時代の技術的蓄積の存在は重要であるが、それらは必要条件に過ぎず、それをイノベーションに結びつけているのは、それらを保有していた旧ソ連の巨大国有企業ではない、この指摘がまず重要である。独創的な技術革新を担う可能性を持つ、革新的なあるいは競争的な経営(陣)を保有していないのが、旧ソ連の巨大国有企業である。その点が、ここでも明確に指摘されているといえる。そして、それらの企業が保有していた技術を、そこにいた技術者群を採用すること等で、新たな分野に活かし、自らの独自な製品開発に繋げたのが、新生企業群、ベンチャーそしてその新興企業群の経営者達なのである。多様かつ多層的な多数のベンチャーの存在の重要性である。

 この点を改めてウクライナのドローン産業を通して指摘したのが、この服部氏によるこの記事と言える。

 

 まさにロシアによる侵略に対する、それへの反撃の必要性、その中でドローンの有効性が、一定程度実証されてきた中、改めて、旧ソ連時代に蓄積され国有企業内に眠っていた技術蓄積を活かす、すなわち技術者を活かす主体、ベンチャーがウクライナ国内で多様に多数形成され、それらが、ロシア侵略長期化の下で、本格的に芽吹いてきたのが、今のウクライナでのドローン生産の活況と、対ロシア戦線での多様なドローンの有効活用の背景にあるということになる。旧ソ連時代の技術蓄積を利活用している、戦時下ウクライナの新興ドローン産業企業群の形成といえよう。

 このウクライナのドローン産業での種々の技術革新は、対ロシア戦争ですぐにその有効性が試され、取捨選択され、多様な形で常に発展している。結果、対ロシア戦争での有効な武器として活かされ始めたのが、今のウクライナの対ロシア戦線での反撃の1つの要因といえよう。

 この状況を端的に報告されたのが、この服部氏によるこの記事であるともいえる。

 

 技術そのものの存在と保有自体は、イノベーションの必要条件であるが、十分条件ではない、ということである。十分条件として、多様な試行錯誤を試みる競争的主体群の形成と、それらの主体の多様な市場の中での模索による(この場合は対ロシア戦の戦場の中での)有効技術の取捨選択、これがあってイノベーションの必要十分条件が揃うということであろう。ウクライナのドローン技術の発展、そして、対ロシア戦での多面的な戦果が、まさにこのことを示していると言える。

 

 ウクライナは、対ロシア戦終了後、この新たな伝統を活かせるのであろうか。それともロシアによる侵略以前の旧ソ連時代以来の巨大国有企業支配の世界に戻るのであろうか。多分、この経験は、技術者、新興企業の経営者、そして旧国有企業を引き継いだ人々にも、浸透し、新たな伝統として、ロシアによる侵略戦争終了後のウクライナ再生の際に、改めて活用されていくものとなるのではないか。特にEU市場と緊密な関係をもつようになれば、この方向での技術の展開が主力になる。そんなふうに思える。

 ロシアによる侵略による多様な多数の悲惨な状況の現出の中での、数少ないウクライナ国の将来展望を明るくする要素が、ここには含まれている、と言えそうである。対露戦を生き延びたウクライナ国が、EUの中での活力ある国民経済の中核要素として、このドローン産業での技術革新の簇生の経験は活かされていくように思えてならない。

 旧ソ連国家、その巨大国有企業のもっていた先進的技術が、市場経済での国民経済としての競争力の形成に大きく寄与する可能性を、ロシアからの侵略に苦しんだがゆえに、ウクライナはようやく現実化できるようになったのではないか。

 

 前に、このブログで、ウクライナに進出した外資系企業がウクライナ外の企業に発注した風力発電機について、ウクライナの旧国有企業が自分でも「できる」と、自社で同様な製品を製作し、自社の前にわざわざ展示した話を、松里公孝著『ウクライナ動乱 −ソ連解体から露ウ戦争まで』(ちくま新書、2023年)を引用して紹介したが、そのような企業姿勢が大きく変わる可能性を秘めた、ウクライナのドローン産業の新興企業群を主体とする発展ともいえよう。

 

 こうなると気になるのが、ロシアの方での軍事用ドローンを含めた軍需品の調達のあり方である。どこまで自国で軍事用ドローン等の軍需品を開発しているのか、部品等の調達はどのようになっているのか、これが気になってきた。特に、戦闘状況に応じた、戦場でのロシア軍の需要に応じた開発を、柔軟に行っているのか、これが気になる。

 すなわち、ロシアの調達している戦闘用ドローン等の軍需品は、完成品の輸入か、それともロシア製か、ということから始まり、さらに、ロシア製だとしても、どこまでロシアで戦場のニーズに迅速対応して開発し、ロシア製の部品を作っているのか、である。その上で、ロシア製だとして、それを担っているのは、旧来の軍需製品生産の国有巨大企業か、それとも、ウクライナのように新興ベンチャー企業群かである。

これらの在り方で、ロシア軍にとって、今必要なドローン等の新規開発が、どれほど迅速に、かつ、戦地の需要に応じて展開されているかが決まってくるであろう。

ただ、このような点についての直接的な情報は、ほとんど入ってきていない。ロシア軍もドローンを多用していることは伝わってくるが、そのドローンの内容や多様性、新たな開発状況等については、残念ながら、全く聞こえてこない。ロシアは、中国やイラン等からそれぞれの国の最新の軍事用ドローンを大量に相対的に安価に調達できるだけに、ロシア内での新開発や独自ドローンの生産はあまり行われていないのではないかと、想像するだけである。

 

ウクライナ侵略によって生じた巨大な軍需、その生産拡大を担っているのは、誰か、これが問われることになる。旧態依然とした国有大企業出自の旧ソ連以来の大企業であれば、ウクライナの国有企業出自の企業と同じ発想、他国の先進技術製品を取り込んで、それなりの先端兵器を作れるが、対ウクライナ戦向けに求められる独自技術、イノベーションを生み出すことがなく、旧ソ連からの兵器の多少のグレードアップに終始している可能性が大である。

イノベーションを起こすような企業間競争に巻き込まれ、揉まれたことない、旧ソ連由来の(旧)国有大企業とその経営陣ということになろう。ある意味、先端的な兵器であるが、「コンコルドスキー」的なものの開発に終始しているのではないだろうか。

そこから示唆されることは、ウクライナでの旧ソ連型計画経済下の国有大企業経営が、戦時下、窮地に陥ったゆえに変革され、ニーズに対応した革新的かつ競争的企業群とその経営者群の形成、それに対応できないロシアの旧国有大企業出自の企業群とその経営陣との、ロシアとウクライナとでの共存、そしてウクライナ工業企業群の脱計画経済の本格化すなわち市場経済の本格化そして工業活性化・先端化の進展、他方でのロシア工業の依然とした非工業化の進展となろう。

 

これが、ロシアのウクライナ侵略とその長期化と、その中でのウクライナの反撃により生じた新たな旧ソ連工業での動きと言えそうである。中国経済での先進工業化進展、そしてそれに次いで生じたのが旧ソ連の中でのウクライナの先進工業化進展で、それがロシアによるウクライナ侵略戦争の長期化の結果として、見込まれるのではないだろうか。こんなことが、日本そして中国の中小企業中心に見た工業経済研究者であった私が、今思っていることである。

できれば、あと数年、元気に生き、ウクライナとロシアの工業の行く末を、この目で見てみたいものである。