FT記事、
「ロシアのミサイルに西側製の部品が見出された」を読んで
Miller, C., C.Cook, & N.Sedoon,
‘Ukraine war Western parts found in Russian missiles’
FT, 16 May 2026, p.2
渡辺幸男
副見出しは、「部品は重要な軍事用部材についての輸出規制が始まって長くたってから製造されたもの」と言う指摘と、「「それぞれのミサイルが100以上の西側で作られた(部品)を含んでいる」というVlasiuk氏(ウクライナの輸出規制関連係官のトップ)の発言」からなっている。
内容は、見出しに見られるように、この木曜日に、ウクライナに多数打ち込まれたロシア製のミサイルの残骸からわかったことは、半導体チップ等の主要部品に、依然として西側諸国製の部材が100以上使われていると言うこと、そしてそれがTIやAMDといったメーカーの2024年や2025年製のシリアルナンバーがついたものであったということである。すなわち、西側諸国の制裁によって規制されている部材が、ウクライナに現在打ち込まれているロシアのミサイルに依然として使われていることの確認である。
ロシアは現在ウクライナ侵略のために多数のミサイルを生産しているが、それらの生産のために、米国により輸出規制がなされている多くの部材を第3国経由で手に入れることができているし、また、中国製のクローン部品に置き換えたりもされているということが指摘されている。
すなわち、西側の制裁により厳しく輸出規制がされているが、第3国経由での入手や中国製への置き換えで、依然として主要部品を輸入に依存しながらも、ロシアは、自国製の巡航ミサイルの量産体制を維持し、それをウクライナ侵略に使用している、というのが、この記事の内容と言える。
この記事が確認し、経済制裁との関連で主張していること、それ自体が興味深いといえる。が、私としては、その上で、工業経済、工業発展の元研究者としての私としては、いつもの疑問、そしてそのことの持つロシア経済にとって、長期的な意味の重要性を、その事実を通して改めて感じてしまう。
すなわち、ウクライナ本格侵略開始から4年余が経ち、すなわち、西側の最新軍需製品の主要部材についての対ロシア輸出規制が本格化してから4年が経過しながら、主要軍需製品である巡航ミサイルの主要部材について、依然として西側の部材の間接輸入と中国製クローンの輸入に大きく依存しているし、依存できている、否、依存せざるを得ないでいる、ロシアの軍需産業の状況をどう考えたら良いのか、ということである。すなわち、ロシア工業の現状の産業としての自立性のなさが、改めて確認されたことの持つ意味である。
なぜ、ロシア工業は、旧ソ連のそれなりに先進的であった工業、特に兵器産業の当時の先端的な主要生産機能を引き継いでいながら、主要部材について、間接輸入に依存し、中国製のクローンにさえ依存せざるを得ないのはなぜなのか。豊かな天然資源輸出による資金と旧ソ連から引き継いだ軍需産業をもとに、特に巡航ミサイル等のトータルな部材からの生産技術をもとに、軍需用先端部材についてのロシア内生産化を、何故、実現できないのであろうか、という疑問である。
これが、可能であれば、高い金を払って既製品の第3国からの輸入をしないで済むし、中国に依存しないで自律・自立的な軍需産業を構築できるはずである。旧ソ連からの、当時は先進的であった基礎的な軍事製品生産技術の継承を前提にすれば、素人考えでは、4年という年限は十分とは言えないとしても、それなりに開発を実現することができる年限ではないか、と思われる。兵器産業の人材は元々存在したはずだし、天然資源の輸出により資金もかなり豊富に存在し、需要そのものは引く手数多に存在するのであるから、ロシア国内で、この記事で取り上げられているようなチップ部品を、少なくとも軍需用に特化したものであれば、需要は豊富にあるのであるから、国内量産化を実現できるのではないか。そう考えるのである。
しかし、実態は、この記事にあるように、依然として西側頼りから抜け出られず、多少なりとも、当初から代替したのは、兵器産業では旧ソ連の技術を引き継いだ後発工業国のはずの中国メーカーの生産に依存することによってである、というのである。これをどう見るべきであろうか。
プーチン政権は、ロシアの工業の改めての先進工業化に向けての政策を放棄したのであろうか。私が、かねて主張しているように、ロシア経済の非工業化が、プーチン政権下、そしてウクライナ侵略戦争下で、一層進行したのであろうか。プーチンの意図としては、先端工業化政策を放棄してはいないのであろう。しかし、ウクライナ戦争遂行のための軍事費を維持し、侵略戦争を国民に受け入れさせるために、ロシア国民の生活水準のある程度の向上の実現との両立を実現させざるを得ない。このような政策をとったことの必然的結果として、少なくとも当面は、先進工業化実現を目指しての大量資金投入を諦めざるを得ない、ということなのであろう。
豊富な原油等の第一次産品の生産、輸出による豊かな外貨収入を前提にしても、長期化している軍事費拡大と、国民生活のそれなりの向上の実現とで、手一杯であり、本格的な先進工業化へ向けての投資を行うことはできないでいる。それが現状なのであろう。ただ、大量の資金を投入したところで、競争的主体が多数生まれるようなことがないような、今のロシアの生産システムでは、台湾や中国に対抗できるような先端工業化推進を実現できるとは、私には思えないが。
ウクライナ侵略のロシア経済、ロシア工業にとって持つ長期的な意味、これは、極めて重大であることを、この最近のロシア製巡航ミサイルの構成部品が物語っているとも言える。ウクライナ侵略のために今最も必要な最新型の巡航ミサイルの先端技術を担った主要部品でさえ、依然として西側製か中国製を多く含むのである。ロシア化、国産化の進行は実現していないことを、如実に示す記事となっている。
西側のロシアに対する先端工業部材の輸出禁止という制裁措置は、第3国経由で回避されるか中国製で代替され、巡航ミサイルの生産をロシアは維持できている。できているから、戦争を続行できている。しかし、そのことは、同時に、ロシア国内生産の部材のみでは先進的巡航ミサイルさえ作れない、今のロシア工業の水準を示唆している。そして、ウクライナ戦争勝利のために国内生産化が最も求められる先端的兵器でさえ、部材を含めた国産化には程遠い。こんなロシア工業の現状が露呈している記事である。中国製の部材に依存する、依存せざるをえないことはあっても、国内産の部材にもっぱら依存して巡航ミサイルを製造することはできないのである。
プーチンの下でのロシアの非工業化の進行、一次産品輸出国への道の結果的追求は、留まるところを知らない、といったところであろう。こんなロシア非工業化の再確認に近い感想を、私に持たらしたのが、この記事である。