2026年2月3日火曜日

2月3日 日経とFTの記事から見たロシアの非工業化の進展

 日経とFTの記事から見たロシアの非工業化の進展

日経記事 薬文江「中国 半導体装置を国産化」

日本経済新聞、2026131日(12版)7ページ

FT記事 Seddon, M. & C. Cook Russia remains dependent on foreign tech

Financial Times, 2 Feb. 2026, p.2 

を読んで 渡辺幸男

 

サブタイトルが「昨年、世界上位20社に3社」「米の輸出規制で台頭」という、日経の記事は、世界の半導体製造装置メーカーの売上高上位20社について、2022年と2025年(見込み)のそれぞれの年のそれをリストアップし、それを国別に見た場合、どのような分布に変化したのかを見たものである。

 掲載された表によれば、上位20社の中では、日系企業が多く、2022年には8社、2025年には9社となっている。そして、それについで、EUの企業が両年とも5社、米社は22年が3社、25年が2社である。そして、22年はそれ以外では韓国が2社、シンガポールが1社、中国が1社であるのに対し、25年には、中国が3社、シンガポールが1社で韓国がゼロである。すなわち、韓国の2社にかわり、中国が2社増えて3社となった表である。変化としては、中国系企業の躍進が目立つ形となっている。記事自体も、その見出しから分かるように、この中国装置メーカーの躍進に注目したものである。

 

 ただ、私の視点ないしは最近の関心からは、別の点が改めて気になった。すなわち、世界の主要工業国がこの表の企業の出身国として掲げられ、ほぼすべて、すなわち、EU、米国、東アジアの日本を含め韓国等が挙げられ、その中に中国も入ってきている、というのであるが、旧ソ連という「先進工業国」であったはずの経済圏、旧ソ連圏出自の諸国家の製造装置企業が皆無という事実である。旧東ドイツは現在のドイツの一部になっていて、エキサイトという企業がドイツ系企業として表に出ており、勉強不足の私には、その企業の由来をわかっていないので、厳密な議論ではないが、何れにしても旧ソ連邦から分かれた諸国の企業は皆無ということは事実である。

 半導体産業に詳しい人から見たら、旧ソ連出自の国の半導体製造装置企業が、この表で皆無なことは当たり前過ぎることなのかもしれない。私も、旧ソ連が達成していた「先端工業」のなかにおいて、IT関連の工業が非常に遅れていたことは多少知っていた。が、旧ソ連解体後35年が経過しても、半導体製造装置において、有力企業が皆無というのは、現代の先端工業での半導体の占める位置が大きいだけに、やはり注目すべき点であると思われる。

 それに対して、中国は、ということになる。旧社会主義体制が崩壊した時点では、明らかに先端的な工業と言える工業は、旧ソ連と異なり、市場競争力があるかどうかを別としても、保有していなかったといえよう。それが、30年余のうちに、有力な半導体製造装置メーカーが何社も登場している、ということになる。

 この際、決定的に重要なのは、そして政府の積極的な育成策以上に重要と私には思われるのは、この記事にも書いてあるように、中国市場が半導体製造装置市場としても世界の4割を占める市場であるということであろう。この巨大な国内市場、強大な半導体需要とその生産のためのこれまた巨大な製造装置の国内需要を前提に、中国政府の支援策を活かし、かつ米政府規制による先端的製造装置の輸入困難化が重なり、極めて多くの新生の半導体製造装置メーカーが中国内で誕生し、激しく競争し、その中のいくつかの企業が急成長したということができる。もちろん、既存の米欧日韓等の半導体製造装置メーカーが存在しながらの成長は生やさしいことではないと言えるが、自国市場が巨大な市場であることは、自国系の企業が有力企業として成長するための極めて重要かつ有効な条件であることは、当然のことといえよう。

 それに対して、ロシアはどうであろうか。EU市場と一体化し、その市場でのIT需要、そして半導体需要の大きさを活かし、積極的にIT産業育成策を実施し、それに成功していれば、旧ソ連解体後の市場経済のもとでの35年の年月は、新たな半導体製造装置メーカー等のIT産業での有力企業を育成することも、中国がそうであったように、論理的には、可能であった時間の長さといえよう。しかし、結果はこの記事が象徴的に示しているように、旧ソ連圏、ましてや旧ソ連邦の後継諸国では、半導体製造産業それ自体も育たなかったし、ましてやそのための製造装置産業企業も育たなかった。少なくとも、有力半導体製造企業群とそのための製造装置産業企業群の形成について、ロシアの工業について関心を持つ人間の一人である日本の私には伝わってきていない。中国との大きな違いである。このような状況を、改めて示したのが、この記事であるともいえよう。

 

 これをどのように見るべきか。ロシアの人口1億4千万人余、これに旧ソ連の他の諸国、ソ連経済圏の諸国、そして旧ソ連崩壊後急接近したEU市場、これらを合わせれば、十分巨大な現代工業が発展する市場の大きさである。EUと旧ソ連圏諸国市場、EUに加盟した諸国を別とすれば、必ずしも市場として一体化したとは言えないが、旧ソ連解体後にロシアが市場経済化を急速に進める中では、ロシア経済はEU市場を前提にしていたといえよう。

 ただし、欧州市場でのロシアの基本的な位置は、早急な市場経済化を実行したこともあり、「先進工業」製品をそれなりに製造可能であったロシアであるが、その工業の担い手の諸企業には市場競争力がほぼなく、市場開放によりほぼ壊滅、ないしはロシア国家により政策的に維持されるだけの存在になったようである。他方で、豊富な一次産業、農産物や鉱産物については、豊富な天然資源と自然環境とにより、当面の競争優位を、欧州市場で形成し得た。結果、欧州市場の中の一次産品供給国として、その存立を拡大し、他方で、あるいは「それゆえに」とも言えるかもしれないが、「先進工業」部分の市場経済下での先端工業化には失敗した。しかし、それなりに豊かにはなった。このように見ることができよう。

国内市場として潜在的には巨大であったが、あまりにも低価格志向の市場であり、先進国工業製品では資本財も含め高価過ぎ、当時の先進工業製品が国内市場向けに浸透しえなかった中国との大きな差異と言えよう。結果、中国では、国内市場を出発点として、極めて多くの市場経済に適合した新興企業が育ったが、ロシアではそのような新工業企業の簇生は、工業分野では生じなかったように見える。

 

その中で、ロシアによるウクライナ侵略が試みられ、米欧日等から経済制裁をロシアは被ることとなった。結果、欧州市場への一次産品輸出国として、欧州市場の中で一定の地位を確立しつつあったロシア経済だが、制裁の結果、欧州市場への一次産品輸出国としての存立に依存しては、それなりの成長どころか、ソ連解体後に実現した国民生活水準を維持することも難しくなった。

 

 

 以上の日経記事に触発された文書を書いているうちに、下記のようの記事が202622日付のFTに掲載された。上記の記事に対する私の感想と大きく関係するので、その紹介と、それを通して、私が感じたことを書いてみたい。

 

FTの記事は22日付のものの2ページに掲載された、Seddon, M. & C. Cookの共著の記事で、タイトルは ‘Russia remains dependent on foreign tech’とあり、副題は、「クレムリンの内部文書は、基幹的な制裁されている輸入品に代替するための戦いを示している」とされている。

 私の関心に基づき、記事の内容を要約的に紹介すれば、まずは、紹介されているロシア政府の内部文書では、ウクライナ侵略以来西側の技術への依存を弱めようとしてきたが、ドローン等の重要な軍事製品製造技術領域で輸入に依存し続けているとし、2030年までに技術的自立を獲得するようにロシア経済を転換することが必要であるとしている、とのことである。

 しかし、それに対し、記者たちは、ベルリンの専門家の意見を紹介し、現行では海外からの基幹的技術製品であまりにも大きく輸入に依存していることから、ロシアの計画は極めて楽観的であるとしている。また、西側の制裁で、技術的に充足することがロシアの多くの分野で困難になっていると、その専門家は指摘している。例えば、ロシアの最新型の巡航ミサイルの部品の50%ほどが多様な国の多様な部品を輸入してできている。そのような状況のため、制裁によりロシアは中国から調達せざるを得なくなり、中国はロシアが輸入するマイクロ・エレクトロニクス製品の90%を供給している、と指摘している。

また、旅客機不足を補うための努力もうまくいかず、西側の部品供給が途絶したことで、改めて開発し直さねばならなくなっている。また報告書はロシアの基幹部門の企業の80%が、現行の46%から2030年までにロシア製のソフトを使用するようになると、ファンタジーと言えるような予測をしていると、専門家は見ている。

 

 この記事の紹介からも、ロシアの技術面での西側依存、特にIT産業関連での技術的自立性の欠如が理解されよう。ロシア製の最新の巡航ミサイルの主要部品の多くが、西側の企業の製造した部品であり、西側諸国の制裁に対応し国内生産へ移行することができないのである。また、西側の制裁が本格化してから、すでに数年経過した時点での上記の報告書で、今なお、過半の主要企業が西側企業の開発したソフトを使用している状況ということでもある。

 

 このような状況をなんとかしなければ、という意識はプーチン政権内部にもあるようで、プーチン大統領の任期である2030年までにはなんとかと考えているようである。ということは、ウクライナへの侵略戦争はプーチンが満足する形での終わりは見えていないのに、あと4年しか無いことになる。西側から半導体製造装置も輸入できず、中国製の装置だけで、どの程度のものを作ることができるというのであろうか。たとえ、半導体の設計自体はできたとしても、先端的な半導体をどんな製造装置によって、誰によって組立、西側から輸入しているそれに変えるものを作ることができるというのであろうか。

 ウクライナ侵略が本格化し、西側の経済制裁が本格実行される中で、すでに4年が過ぎようとしている。その状況の継続下で、ロシアのIT産業の本格形成が本当に2030年までの残りの4年でできると考えているのであろうか。ましてや、中国へ依存でき、中国はそれなりに先端的に近いIT製品を生産できるのであり、そこからの輸入に依存することが可能である。そのような状況にあり、かつ、ウクライナ侵略戦争遂行とそこでのそれなりの「勝利」が第一であるロシアそしてプーチンが、内製へと切り替えるきっかけを掴めるのであろうか。

国内産の製品がたとえそれなりにできるようになったとしても、試作品を試用し、本格使用を目指すような余裕が、兵器生産の企業を含め今のロシアの企業群にあるのであろうか。私には、プーチンそしてロシア政府にそのような余裕はなく、その時使えるものがあれば、それを優先、すなわち、中国製の部品を優先して使用し、国内での試作品の試用を行う余裕など皆無のように見える。まさに記事にあるように、2030年までに、というのは、‘fantasy’、夢物語であろう。

試作用の部品ができる、ということ自体も、市場経済化したのちのロシア企業の行動を、それなりに見てきたものにとっては夢物語そのものとは思えるのだが。ましてや、実用化できるというというのは、・・・???である。

 

 このように2月に入ってからの日経とFTの2つの記事を見てくると、ロシアの工業の現状の今の「先進工業」からの遅れ、否、相対的な後退が見えてくる。そして、それを逆転し遅れを取り戻そうというロシア政府の意思は存在していそうである。だが、ウクライナへの侵略は、意図的にはロシア工業の自律的再先進工業化を志向していたとしても、本格的国内生産に向けての試行さえ無理であり、結果的には、西側の工業への依存から中国の工業への依存へと調達先を押し曲げるしか選択肢はないと言えそうである。結果、ウクライナ侵略の長期化は、ロシア工業の非先進工業化そして非工業化のさらなる促進をもたらすことになりそうである。

ウクライナ侵略の長期化により、2030年までのプーチン政権下での先進工業化、非「非工業化」の実現は、その端緒だけだとしても、無理であり、夢物語そのものであるといえよう。私には、このように見えてくる。

 

できれば、2030年のロシアの工業状況を、この目で直接は見ることができ無いにしても、新聞等の情報を通してでも、見てみたいものである。非工業化がさらに進行した2030年代のロシアは、完全に中国経済圏の一次産品供給国化しているのでは無いか、と私は予測しているのだが。

2026年1月1日木曜日

2026年元旦 新年のご挨拶

 謹 賀 新 年

 渡辺幸男


 昨年も、自分なりには充実して過ごすことができました。はたから見れば、ほぼ引きこもりに近い状態で、すごしました。

朝起きてからは、妻の手伝い的な形で家事の分担、家の前の掃除をし、洗濯物をベランダに干す等をおこない、まずは朝のルーティンをこなす。

朝のルーティンが終了してからは、新聞2紙に目を通し、昼過ぎにはフィナンシャル・タイムズに目を通す。そのほかの時間は、池の鯉の世話と庭の植木や植木鉢の世話、そして、ネットで注文した本を読む、これでほぼ毎日の(趣味の)時間が、あっという間にすぎていきます。

こんな毎日を、今年も送ることができたら良いなと思っています。

 

 そんな私が、もと産業論から見た中小企業論研究者として、今、最も気になるのは、中国とロシアの産業展開です。新聞でもそれらの関連の記事については、かなり丁寧に読み、自分なりに考え、意見をまとめ、自分のブログに感想文を掲載するということをしてきました。

 

 そして、その中でも、今、最も意識しているのは、ロシアの産業動向です。ロシアの工業の実態については、新聞報道を通しても、新刊の日本語文献を通じても、ごく断片的にしか伝わってきません。そんな中で、ロシアのウクライナ侵略は、満4年を迎えようとしています。そして、ロシア経済の停滞が、マクロ統計をとおして、戦時生産体制下での増産を目指しているはずにも関わらず、垣間見えてきました。

 それでなくとも、旧ソ連の崩壊から以後、工業生産や工業製品について、西欧と中国への依存が増し、ロシア国内生産が縮小していることが報告されていました。そのもとで、ウクライナ侵略を行い、そのため欧米からの輸入制限の制裁をうけました。そして軍需生産へのシフトをすすめたことで、民需製品や産業用高度部品については中国への依存を強め、国内工業の多くの部門での生産が衰退状況にあることが、見えてきました。その上での生産全体の停滞です。

 プーチン大統領は自らの目指す「ロシア帝国」の再構築のもとで、どんな経済、特に工業生産力を構築することを考えているのでしょうか。私には全く見えてきません。というより、自立的な工業生産力、旧ソ連経済下では、それなりに実現していた、それを最終的に解体することを、ウクライナ侵略を通して実行しているのではないと思えてきてなりません。結果的には、工業生産力的にはガランドウで、工業製品については中国にほぼ全面的に依存する「帝国」を構築しようとしているのではないか、そんなふうに見えてきます。

 今年も、ロシアの工業生産の動向に注目し、その行き先を眺め、自分なりの産業論理解の妥当性について検討していきたいと思っています。

 私は、年頭にあたって、こんなことを考えています。

 

 今年も、勝手な感想文をブログに書くかと思います。本年もよろしくお願いします。

 

2025年12月27日土曜日

12月27日 日経記事、小川知世、古川慶一「ロシア、旅客機不足に直面」を読んで

 日経記事、小川知世、古川慶一「ロシア、旅客機不足に直面」

  サブタイトル「制裁で部品調達困難、退役機増」

   「国内生産も進まず」「日本、整備不安で領空回避」 

   (日本経済新聞、20251227日、11版、13ページ)

を読んで 渡辺幸男

 

 この記事の内容は、タイトルとサブタイトルとで、ほぼ要約されていると言えるが、ロシアの航空会社の所有する外国製の機体の部品が輸入できなくなり、国産部品への切り替え、他の機体を解体して転用、あるいは第三国経由の輸入等で対応しているが、整備について国内では対応できず、輸入部品も高くつき、旅客機が足りなくなる恐れが出てきているとしている。現在稼働している旅客機の3分の1が2030年までに退役するとの見通しも紹介されている。また、部品不足が日本の航空会社のロシア上空飛行にも影響し、それを避けるようになっていることも紹介している。

 そのための対策として、ロシア政府は国産機を増やすことを目指し、国産エンジン搭載の軽飛行機の試験飛行や、輸入部品を自国製に置き換えた国産旅客機の試験飛行を行っていることについて、この記事は紹介している。また航空会社の保有機体の国産比率を現行の3割から30年に8割に増やす目標をたてているが、ここ数年での納入は5機にとどまるとし、「ロシアは戦闘機やロケットの技術を持つが、採算を維持しつつ完全に自前で航空機を開発・量産するのは容易ではない」としている。

 

 ロシアは旧ソ連の航空機産業を継承しているはずであり、旧ソ連は、自前の開発でジェット旅客機を部品から製造していたはずである。かの「コンコルドスキー」と呼ばれた超音速旅客機、ツポレフTU-144をも、一応製品化したはずである。しかし、それにもかかわらず、現在、まともな旅客機を、自国製の部品を使って製造することはできなくなっている、ということが紹介されている記事と言える。しかも、旧ソ連時代のジェット旅客機が、旧ソ連崩壊35年後も、現役の旅客機として飛んでおり、50年経過した機体が運航に使用され、今年の7月に墜落したとのことも触れられている。このような事実をどう見るべきなのであろうか。 

 

 202311月に、松里公孝著『ウクライナ動乱 −ソ連解体から露ウ戦争まで』(ちくま新書、2023年)を私のブログで紹介し、その中で、ウクライナの工場が自工場で作れるのに、近隣に設置された機械が、ポーランドのメーカーに発注されたことを怒り、自社で作れること示すためにその機械を作り工場前に飾った、というエピソードが書かれているのを示した。まさにそのようなこと、あるいはそれ以上のことがジェット旅客機で生じ、40年程度経ったことで、改めてジェット旅客機を開発し生産するにあたり、旧ソ連時代の蓄積をうまく活かせない、ということが示されているといえよう。新たに現状で国際競争力のあるジェット旅客機を開発し量産することができないどころか、輸入困難となった交換部品の代替品さえ、開発生産できない、ということである。

 旧ソ連時代の蓄積を活かせないと書いたが、旧ソ連時代の蓄積そのものが、現状の市場経済のもとで、商品生産として存立可能なものではないゆえに、必要に迫られながら、その開発そして生産が、部品レベルでも困難である、と言えるのかもしれない。

 今になって、プーチンは「我々には近代的な国産航空機が必要だ」といい、西側の制裁という契機が、ロシアの技術力を高め競争力を強化する好機だといっているそうだが、そのために何が必要か、少なくとも旧ソ連の遺産を市場競争力のある生産力に転用できなかった現ロシアの現代工業が、何をどうしたら、その問題点を克服でき、改めて先端的な旅客機の開発を実現できると考えているのであろうか。全く反省は見えてこないし、それゆえ反省に基づいた上での新たな対策も見えてこない。お題目を唱え、お金を投下するだけで、国際競争力のある産業は育たない。この点の理解がないのであろう。結果、中国が開発している旅客機の部品さらには旅客機そのものの輸入に終わるのではないか。

 旧ソ連の国際競争力形成努力を欠いていた近代工業を継承しながら、中核的工業部門の衰退という「非工業化」を経験しつつあるロシア、そのようなロシアの工業にとって、どのような筋道なら再工業化、少なくとも民需工業の先端工業化、輸出競争力のある工業部門の形成が実現できるのであろうか。その道筋を改めて検討し、それを前提に多数の主体により試行錯誤し開発しない限り、プーチンの思いと例え豊富な資金投入されたとしても、それだけで、その考えは実現しないであろう。資源や一次産品の輸出で外貨を獲得でき、それでもって先端工業製品を輸入できた国そして諸企業が、まだ中国からそれなりの先端工業製品を輸入できる中で、大統領が号令し、金を投下すれば、諸企業が再工業化への厳しい道を選択し、市場からの脱落の可能性をも踏まえながら試行錯誤を実行し、生き残った企業だけによる再工業化を実現できるのであろうか。

私には、今のロシア工業に関しては、再工業化への道筋が全く見えてこない。また、この記事で紹介されているロシアの大統領の言質にもそれが全く感じられない。

2025年12月12日金曜日

12月12日 冬支度のサルビア

 エントランスのサルビアの鉢を
テラスに取り込みました。


これまでに比べ、
冬越しの花の種類と鉢の数が極端に減ってしまいました。
私の夏の努力不足と、
今年の猛暑が重なり、
それなりに元気に咲いているのは、
サルビアといくつかのゼラニウムといった状況です。


サルビアは、

私の花との付き合いの当初の頃からのもので、

二宮に居住してから先月で満50年ですが、

その最初の頃から、毎年、実生から育て、

冬を越させ、咲かせ続けた、

50年近く続く、代々のサルビアの末裔です。

今も、我が家の庭の賑わいを、一年中、支えてくれています。

これからも、サルビアの朱色を、

楽しんでいくつもりで、苗も採取し、

鉢に30本ぐらい植え、これもテラスに入れました。

2025年12月2日火曜日

12月2日 日経記事、The Economist 「中国の技術革新に学べ」を読んで

 The Economist 「中国の技術革新に学べ」

(日経、2025122日、p.7

を読んで 渡辺幸男

 

 日経のこの記事は、ロボタクシー開発と新薬開発の2つを取り上げ、中国の新製品開発の特徴を述べている英エコノミスト誌1129日号掲載の記事の翻訳である(日経電子版、国際、The Economistにも掲載)。そこでの特徴について、中国の新製品開発の優位性としては、関連部材の生産供給面での優位性、中国の巨大市場規模によるコスト削減、製薬での治験のやりやすさを指摘し、同時に、地方政府のさまざまな支援、そして、中でも特に中央政府の規制の機敏な策定を強調し、これらがイノベーションを加速しているとしている。

 また、自動運転車の試験運用を50以上の都市が行なっているとも述べている。そして、中国国内での熾烈な競争は、個々の企業には厳しいものであるが、生き残った企業は鍛えられ、輸出競争力を持つ企業となる。結果として西側諸国は産業空洞化に見舞われるリスクがあるとし、それを防ぐためには、西側諸国はイノベーションのあり方を再考すべきであると述べている。

 

 FTでも紹介されている新薬開発での中国市場の迅速性の議論は、FTの記事とほぼ同様の論理で展開され、同時に、ロボタクシーの開発での多様な試みの一部として、50以上の自治体で試験運用されていることが紹介されている。そこでは、中国政府、それも地方政府を巻き込んだ製品開発への多数の多様な努力の存在の一端が紹介されている。

 特に興味深いのは、中国のこの多様な開発その迅速性から、西側諸国の産業が空洞化するというこの記事の指摘(「中国企業との競争は西側の産業空洞化を招くリスクがある」と述べている)であろう。個々の製品での中国の技術開発での先行というだけではなく、各国先進工業間での開発競争での中国企業の圧倒的優位により、他の先進工業国での産業衰退が生じる可能性があるというのである。

 かつての産業空洞化論は、当時の中国以外の先進工業国の諸企業が、中国等に進出することで、出身母体の国のモノづくりの生産工場部分が「空洞化」するという議論であったが、ここでは、新製品分野開発競争の結果として、中国系企業の中国での生産活動が、他の西側先進工業国での工業生産活動を圧倒し、後者を中国で開発された製品の単なる消費国としてしまい、当該国系の先進工業企業群が生産どころか開発や試作を含め消滅するという可能性を示唆する議論となっている。

 非常に大胆な中国先進工業化による、他の西側先進工業国の産業空洞化論であり、今までにない中国産業発展論を意味している記事とも言えそうである。

 

 他方で、私は、この記事を読む前に、すなわち121日までに以下のような内容のメモを、中国の産業発展についての見方として、書いていた。

 

タイトルは、「改革開放後の中国経済の工業先進化(先進工業国)の道と

キャッチアップ段階を越えた中国工業の現況・到達点をどう見るか」というものである。

 改革開放後に生じた中国経済の工業化の特徴の第一は、海外市場向け委託の加工生産、低賃金労働力の動員と、労働集約的部分の受託生産の急激な巨大な規模への拡大であったといえよう。同時に生じたことは、中国国内市場としてみれば、海外からの受託生産労働者等を含めた、巨大だが、低価格・低級品の市場、消費財・資本財そして中間財の諸市場の一挙の本格的形成が生じたということが言える。それらの国内需要向けの市場は、他の工業国の諸製品にとっては、それらが供給可能な製品の価格が高価すぎることで、浸透できない極端な低価格品の巨大市場として形成された。この新規形成の国内低価格品市場向けに、多様な出自の国内の供給源・企業群が、計画経済下で形成されたそれなりの近代工業技術や、加工生産のために進出した外資企業の技術を模倣等により利用し、さらには先進工業国の技術の簡便化開発を行い、低価格巨大市場に適合した独自な生産体系を構築した。

 同時に、中国の旧来の国有大企業は、本格的な低価格品「市場」の形成そして拡大についていくことができず、停滞・縮小ぎみであった。旧来からの国有企業は、低価格品市場なりに生じていた市場ニーズの変化に対応した開発努力という面で、郷鎮企業等の新興(民営)企業群に比して甚だしく劣っていた。そのことで、新たに形成され巨大化した低価格品中心の市場での競争から多くの巨大国有企業が脱落し、単なる熟練労働力や工業生産技術の提供源にとどまることとなった。

このような状況について多くを学んだのは、改革開放期初期までの中国自転車産業での寡占的巨大国有企業である天津飛鴿自行車の事例からである。同社は計画経済下での国有大企業であり、同社の1990年代初頭の改革開放初期での急躍進とその後の一挙の縮小、寡占企業からの後退状況を通してである。その背景には、極端に低価格だが市場競争が本格的に行われるようになった市場で、多様な民営企業の激しい参入とそれなりの差別化競争が行われるようになったことがある。これらの新興企業群との市場競争についていくことができず、既存の国有巨大企業は衰退の一途を辿ることとなった

計画経済時からの国有巨大企業は、製品を量産的に作れるが、市場ニーズの変化に応じた製品を開発生産することはできない、政府から指示された(既存の)物を作るだけの「巨大」企業だったのである。結果として、独自な巨大国内市場と国内生産体制の再構築が生じ、国内巨大市場向けの多数かつ多様な新規創業の国内資本による多様な多数の企業による競争が生じた。国内市場が巨大故に、企業が巨大化しても、寡占企業が(協調的)寡占支配をする市場にはならず、あるいはできず、競争的市場を維持することとなった。

 中国経済独自の国内市場向けの本格的な工業発展は、2000年代初頭までに実現した。その中から、先進工業国市場でも通用する独自な開発型生産企業が登場し始めた。また、その直前には、山塞携帯のような発展途上国向けの独自工業製品の開発も、多様な工業分野で生じていた。多様な開発主体による、多様な多数の開発による競争関係が、巨大化した国内市場の存在により維持され、多様な開発内容の製品が、迅速に多数供給される状況が生じた。競争が激しく、競争的市場であるが故に、開発の過程の途中段階でも市場へ供給され、市場で揉まれる中で多くの新製品が消滅するとともに、そこで生き残った少数だが開発完成品となるような製品が、多様な分野で簇生した。

その中から、ドローンのDJI、バッテリーKATLEVBYDのような、さらには通信機器・システムのファーウェイのような、国内巨大市場の高度化を前提に、そこでの激しい競争から、国際市場でも先端的と言えるような諸企業が誕生した。

 中国系の先進工業分野の巨大企業が形成された2020年代でも、依然として、中国国内市場は十分に巨大で、それらの中国系巨大企業も含めた国内企業中心に競争的に供給されることとなっている。国内市場はこれまで以上に豊かになった10億人以上の(独自)巨大市場であるが故に、国内新規創業企業群も含めた独自な競争の場となっている。国内市場向け独自商品開発の場であり、最終消費財、資本財、それらの中間財等、全ての面での激しい競争下で、諸企業による開発そして競争が行われている。

結果として、そこから、海外市場の需要向けとも共通の新製品開発をも実現するようになってきている。特に、国内市場の飽和ないしは停滞を契機に一挙に海外市場へ進出し始めた。その典型が、小米等のスマホであり、BYD等によるEVであろう。単なる低価格に止まらない、独自製品供給企業群としての海外進出の実現である。

 それが、消費財から始まり、今や多くの資本財でも、生じているようである。その結果を象徴する出来事が、ドイツの資本財市場で、ドイツ製品と競合可能な資本財の大量供給に成功し、中国とドイツの資本財貿易で、これまで一貫してドイツ側の大幅黒字実現の状況にあったものが、中国側の黒字傾向へと転換したという、FTの記事で示されていたことであろう。また、VWがドイツでの雇用を大幅に削減し、中国にEV開発生産のための開発センターを多額の投資を行い構築し、中国で全面的な中国内外市場向けの新製品開発を手掛け始めたことにも表れているといえるであろう。

 改革開放下での先進工業へのキャッチアップ過程から、現在の先進工業化状況への中国経済の発展論理をこのように見るならば、そこからいくつかのことが見えてくる。米国以外の先進工業化した先行の工業国との大きな違いである。最初に近代工業が発展したイギリスと米国以外の先進工業化諸国は、いずれも本格的先進工業化段階で海外市場を主要な競争の場とするようとなり、同時に、出自国内では寡占的市場支配を実現し、国内市場での競争的市場環境は主要大企業にとっては消滅していた。主要対外市場をめぐっての国内大企業間の競争は、寡占的なそれであり、大企業化したもとでも、新規企業が常に創業・参入し、競争的市場が維持される状況ではなかった。

  また、国内市場の大きさの限界から、国内市場向けの生産だけで、その時点での十分な規模の経済性を実現することは困難な場合が多かった。日本の場合、1億数千万人の国内市場があり、先進工業化する過程で、乗用車産業等についても国内市場にもっぱら依存して、競争的寡占市場状況を実現することができた。しかし、後発の完成車メーカーは、海外市場に相対的に多く依存する形で、初めて国内市場での競争でも寡占的競争関係に耐えうるだけの、その時点での十分な規模の経済性を実現することが可能となった。しかし、そこでは、国内市場の拡大過程で新規参入も多く見られたが、多様な多数な企業が参入し、技術変化等を契機に、主導する企業が大きく変化するような状況となることはなかった。

 今の中国の工業についてみれば、ここが大きく違うということができよう。巨大な国内市場であるが故に、自動車産業の国内市場が年間3千万台を越えてきている。米国市場でも考えられなかった国内市場規模である。ましてや500万台前後の日本とは桁が違うことになる。

 

 ここまでが121日までに書いていた部分である。

 

 以上の私の議論と、122日の日経に掲載されたエコノミストの記事との大きな差異は、エコノミストの記事が、中国産業の新製品分野の迅速な形成の要因の第一として中央政府の「規制の機敏な策定」を取り上げていることであろう。私に、そのような理解、中央政府の政策策定過程の意義についての認識はほぼなかった。国内市場の巨大さ、地方政府の多様な多数の支援のもとでの多数の多様な企業の新規参入、その結果としての激しい競争、関連産業の重厚な存在、このような点に注目し、特に国内市場の巨大さとそこでの競争の激しさ、それも多様な新企業の参入によるそれを強調していたのが、私の議論であった。

 もう1つの相違点は、中国の産業発展が、今や西側先進工業国での本格的産業空洞化をもたらす可能性を、エコノミストの記事が指摘していることである。これは米国産業を含むことになるはずだが、これまた、私の想像する範囲を大きく超えるものである。西側先進工業国の産業空洞化、この可能性を言えるほど、中国での新製品開発環境は優れているのであろうか。FTによれば、VWがドイツ国内の人員を大幅に削減しても、中国で本格的に開発から量産までのEV開発生産拠点を立ち上げようとしているということであるが。それゆえ、これまでの西側諸国企業の中国現地工場進出とは、VWの場合にはその内容が根本的に違うことは確かである。

が、西側先進工業国の産業空洞化までが展望されうるということを、述べることは可能なのであろうか。今の私には、中国の産業の現状を見ていないこともあり、ここまでの見通しを言うことは不可能である。

 

 エコノミストのこの記事は、すごい内容であり、かつ大胆な記事である。私には121日の時点で、全く展望できなかったことが書かれている記事でもあるといえる。ますます、中国の産業展開を、FTと日本語文献を通してだけという、間接的だけのアプローチだが、頭が動く限り追いかけたくなった。

2025年11月29日土曜日

11月29日 FT記事 ‘VW says EV production costs halved with car engineered entirely in China’ を読んで

 White, E., K. Inagaki & S. Ash,VW says EV production costs halved with car engineered entirely in ChinaFT, Nov. 2025, p.1) を読んで 

渡辺幸男

 

 またまた興味深い記事がFTに掲載された。VW2030年までにドイツ国内のVWの自動車工場勤務者を35千人減らす一方で、同社の自動車の新車開発については、同社としては初めてドイツ外、それも中国で全面的に行う、というものである。

 ドイツと中国の資本財の貿易関係で、ドイツの出超から中国の出超へと逆転が生じたという記事がでて、まだ間もないのであるが、今度は、欧州一の自動車メーカーVWの新車開発拠点が、全面的にドイツ外に、しかも中国に出ていくという記事である。

 

同社によれば、2023年の時点で、ドイツでEVを開発し生産するのに比して、中国でのそれは50%ほどコストが安いと述べている。労働コストの低さもあるが、バッテリー調達のようなサプライ・チェーンの効率性や開発期間の短さにより、それは生じていたとしている。そのため、VWは安徽省の合肥市に開発センターを作り、数十億投資したとのことである。

VWは現在中国の内燃機関による自動車市場では約20%のシェアを保っているが、EVやプラグインハイブリッド車生産では、中国市場で上位10位以内にも入っていない。しかし、中国EV市場での生き残りのために、2022年末以来、VWはほぼ40億ユーロを投下してきた。今月、同社は自動運転のためのAIを、他社と共同で開発に成功したと発表している、と記事では述べられている。

 

ここでも、「VW、お前もか」というのが率直な感想である。

欧州最大の乗用車メーカーが、生き残るために、ドイツでの労働者大幅削減と、中国での本格的開発拠点形成、そして中国での巨大投資実行、これも、資本の論理としては、ある意味当然であろう。自社の海外主力市場でのシェアを維持するために改めて本格的投資を行い、同時に停滞気味で高コストの出自国での生産は縮小する。しかし、それがVWであり、中国市場であることに、あらためて感慨深いものがある。

VWは、早くから中国市場に進出し、そこでの優位を確立し、中国市場の成長につれ、自らの販売を拡大し、中国市場を主要市場とする企業となっていた。しかし、開発等については、基本的にドイツ国内中心だったはずである。それが、なのである。ドイツの高い工業水準を背景に、その先端企業として世界市場で覇者となっていたVW、それが、中国でも多額の金をこれから投資し、全面的な開発拠点を設けるのみならず、本国での自社雇用労働者を大幅削減しながら、それを実行するというのである。

中国市場の将来性に、自社の命運を賭けたのであろうか。ヨーロッパの「お山の大将」が、生き馬の目を抜く中国市場の激しい競争と、そのもとでの急激な状況変化についていけるのであろうか。戦後欧州市場のような、競争相手が見えるような相対的に安定的、徐々に拡大し変化する巨大寡占市場ではないのが、今の中国市場である。VWが中国市場に本格進出した改革開放期の中国市場でもない。中国の各製品の市場は、巨大な国内市場を前提に、多様な多数の企業が生き馬の目を抜く競争を繰り返し、勝者が常に入れ替わるような市場である。中国自動車市場も、EV化することで、このような中国市場の中での例外的な市場とはいえなくなっている。このことを如実に示したのが、新興企業であるBYDEV市場での、当面の勝利であろう。

こんな市場にかけるだけの力は、中国市場に精通しているはずのVWであっても、外資であり、欧州の寡占間競争の中で生きてきたVWにあるのであろうか。それとも、欧州市場そして中国市場でVWとしてジリ貧の中では、それでも中国市場に賭けざるを得ないのが、今のVWなのであろうか。

 

それにしても、巨大市場としての中国の形成の上での、中国の開発拠点としての有効性を含めた工業生産地域としての成長、これには瞠目すべきものがあるといえよう。労賃が相対的安いのは、これまでの経緯からわかりやすい点である。しかし、関連産業、サプライヤー層の充実、それも新製品開発を含めてのそれは、かつては考えられなかったことである。ましてや、開発期間が半分で済む、これは中国のここへきての基盤産業の充実そのものの成果と言える。これからの国際競争力形成において、主要なあるいは最高の開発拠点に中国がなる可能性が高いことを、この記事で紹介されているVWの行動が、あらためて示唆しているのではないか。このように考えざるを得ない。

 

このことの持つ意味は大きい。これまで、アメリカがヨーロッパに無い巨大な一国市場であり、そこでの先進分野形成が、世界の資本主義の産業発展を牽引してきた。今も多くの分野で牽引している。その牙城を1億人余の国内市場規模の日本経済・産業は突き崩すことはできず、最終的に米国市場に依存する先進工業国の一つに到達するにとどまった。その米国経済、米国市場と並び立つ、世界経済・市場と技術開発の両面で世界産業を主導する国民経済に、中国経済が名乗りを上げている、と見ることもできそうである。それが今回のVWの行動にも現れていると私は感じるのであるが、いかがであろうか。

 

中国経済での国内市場は、自動車でいえば年間3千万台規模となり、かつてどこにもなかった巨大な国内市場を前提とし、先進的技術に基づく、新規参入企業も含めた激しい企業間競争をしている。そして、その前提として、多数の新規参入企業を許容する資金調達構造の存在、これらは現代中国の市場経済の特徴と言える。まさに、中国資本主義のダイナミズムを生み出している、基本的な要因であるといえよう。

世界最大規模になったような企業が、国内市場で寡占的市場支配を実現できないのが中国市場の大きさである。世界最大規模に巨大化した企業が、競争的なまま国際市場にも進出するのが、中国先進企業の現実といえよう。市場の大きさと、それとともに技術変化の激しさとから、いまや中国経済では「GM」のような存在は生まれないのではないか、そんなふうに思われる昨今である。

2025年11月26日水曜日

11月26日 FT記事、Chinese companies push up price of Russia’s war supplies を読んで

 Cook, C. Chinese companies push up price of Russia’s war supplies

FT, 25 Nov. 2025, p.3


を読んで 渡辺幸男

 

 ロシアによるウクライナ本格侵略開始後の中露貿易の動向が、機械工業関連について紹介されている記事である。その小見出しでは、「中国の輸出業者たちは、ロシアの軍需産業関連バイヤーに対する価格を引き上げ、西側の制裁で輸入を制限され、彼らの供給に依存せざるを得ないことから利益を得ている、と新たな調査研究が明らかにした」としている。

 

 具体的な中身として、特に機械・同関連産業に分類されるような戦争遂行に不可欠であるような製品について、西側の制裁は、輸入製品の価格をより高価にすることで、ロシアの物的生産能力を制約しているとしている、という報告を紹介している。

その中でも、特に私が注目したのは、中国からロシア向けの「ボールベアリング」の輸出についての数字である。2021年と2024年とを比較し、ロシアの中国からの輸入金額は76%増大しているが、中国からのロシア向けの輸出量はその期間に13%も下落している、という指摘である。機械や兵器生産において不可欠な部品であるボールベアリングの中国からの輸入金額は急増しているのに、中国からの輸入数量は逆に減少しているのである。ボールベアリングの単位あたりの価格が倍増しているにもかかわらず、輸入の拡大にはつながっていないということを示唆している可能性が高いといえよう。

 

これをどう見るべきであろうか。

ベアリングは、機械や兵器の生産には不可欠な部品である。また、中国政府ないしは中国企業が、主体的に輸出を制限しているということは考えられにくい。そうであるならば、可能性の1つとしては、中国製のベアリングの価格が急騰し、ロシアが他国からの調達を行い、中国製品の価格が高止まりしながらも、調達先代替により中国からの調達が減少している、ということがありうる。いま一つの可能性は、戦時下にあるロシアだが、輸入原資が不足してきていて、思うように輸入量を増やすどころか維持することさえできなくなったということが考えられる。さらには、ロシア国内での機械や兵器の生産それ自体の水準拡大どころか維持さえ困難となり、部品としてのベアリング需要が減り、中国からの調達も縮小したという可能性も考えられる。

 

制裁に参加している西側諸国以外で、機械や兵器に使用可能なレベルの部品を大量に供給可能で、中国からの調達に量的にも代替可能な工業国は、果たして存在しているのであろうか。この記事にも書かれているように、制裁に参加していない国からの輸入の価格は、対中国と同様に価格上昇しているようであるから、供給面での中国からの代替国の存在の可能性については、必要量の巨大さという面から見て、ほぼ不可能ではないだろうか。

そのように見てくると、ボールベアリングの中国からの輸入量が縮小しているということは、ロシア側での理由によるのではないかと考えられる。戦時下であることから、ロシアの機械工業や兵器産業という、戦時体制を物的に支えるロシア内工業生産に対する需要が縮小するということは、ほぼあり得ないであろう。あるとすれば、生産体制そのものを制約する状況の発生か、部品調達をする際の輸入原資の不足の発生か、のいずれかということになろう。私には、物的な生産能力そのものが限界にきて縮小するということよりも、輸入原資の不足の可能性が、理由として大きいと考えられる。

他の国からの輸入価格も急騰していると、この記事の最後に触れられていることからも、輸入原資の不足の可能性は高いのではないだろうか。原油や天然ガス等の輸出による外貨の獲得、それらも欧州への輸出等の制裁による制約強化で先細りである。他方で、国民の生活水準を維持するための消費財等については、それらの輸入水準を維持しながらのウクライナ侵略遂行が必要である。すなわち生活水準切り詰めを伴う本格的戦時体制への移行へについては大きな制約がある。その中で、外貨獲得機会の縮小が響いてきたのではないか。こんなふうに考えるのであるが、如何であろうか。

 

ウクライナにとって、ロシアの侵略に対抗することがますます困難になってきていることは確かなようであり、その結果として米国トランプ政権の強引な和平案にも、一定の理解を示さなければならないような状況に、ウクライナ政府は陥っているようにもみえる。しかし、同時に、ロシア側も、ロシア国民の許容範囲でウクライナ侵略戦争を実行していくこと、プーチン大統領側の強気姿勢にも拘らず、これも困難になりつつある。このようにも見えてくる。

ロシア側の兵士の人的損害の多さが指摘され、徴兵の本格的実施への制約等で、それが侵略戦争遂行の難しさをロシア側にもたらしているということであるが、同時に、ロシア政府は資金面でも侵略続行のための限界にぶつかりつつあるのではないか。このような示唆を感じさせるFTのこの記事である。