2026年9月9日水曜日

9月9日 FT, Adam Tooze, ‘ ‘Chimerica’ is now a chimera and global stability is the victim’ を読んで

 Adam Tooze, ‘ ‘Chimerica is now a  chimera           and global stability is the victim’   

FT, 8 Sept. 2026, p.17 ‘Opinion’掲載

 を読んで

 

渡辺幸男

 

 この論考は、私にとって強烈であった。ここのところ、ここでも描かれている中国のドル離れの進展が、大変気になっていたが、それを正面から議論する議論は、FTでもあまり見かけなかったような気がする。それが、この論考は、まさに正面から中国のドル離れと、その当面の意味を述べている。

 これまで、2000年代の世界経済は、米国の巨大な赤字垂れ流しと、経常収支大幅黒字国の中国(そして日本)の米国国債の購入を通してのドル資産蓄積を通して、全体的なバランスが取れていた。この点を、Tooze氏も強調している。その上で、Tooze氏が強調しているのは、そのあり方が、今、大きく変わってきたということである。

 アメリカのドル垂れ流しは相変わらずであり、トランプ政権下でも酷くなる一方であるが、その受け皿となり、曲がりなりにも、4半世紀近くに渡り、世界経済の安定的循環を可能にしてきた、米国経常収支赤字の受け皿としての中国の姿勢が大きく変わったということである。中国の黒字は米国との関連ではなく、欧州とのそれとなったというのである。

結果、「中国は外貨を蓄積し続け、年間1兆ドルにまでなっているが、その外貨の蓄積は、2000年代と大きく異なり、スムーズに米国国債市場へと流れなくなった」と言うのである。米国政府は米国債を発行し続けており、その買い手を当面は見つけているが、それは利潤動機の投資家が、ますます多くを手にしているということである。既存の米国との貿易関係の継続に大きな意味を見出していたような政府、まさに中国政府がそうであったのだが、そうではなく、あくまでも(短期的)利潤動機に基づいて、投資家が大量に米国債を、当面購入し、米国の経常赤字がファイナンスされているというのである。

このウォール・ストリートによる対応により、米国経済がそれなりに均衡を、中・長期的に安定的に維持することが、ますます難しくならざるを得ないと、Tooze氏はいっている。

これまでの‘Chimerica’というビジョンは、マクロ経済的に、それなりに成り立つものであった。しかし、それが崩れ、短期的な思惑でも動くようになっている。

 このように、Tooze氏は述べている。

 

 まさに、私が気になっていた、中国の米国債離れの論理と、それが持つ意味を、正面から直接的に確認しているのが、本論考である。

今、米国との貿易、その大幅黒字を通しての世界経済の安定的拡大が第一であった中国に代わって、米国債の中核的な買い手として、新たな1つの中心になっているのが、短期的な利益にも大きく動かされる、ヘッジ・ファンドであると指摘しているのである。

2000年代以降、毎年、日本と中国が米国債を大きく買い越すことで、世界経済のバランスは、米国の巨大な経常収支の赤字にもかかわらず、維持されてきた。そのバランスの担い手の主要な1つが、中国政府からヘッジ・ファンドのような投資家群に移った、これを指摘した論考である。その帰結は、日中が支えていた米国の経常収支赤字、そのバランスが、いつ崩れてもおかしくないことを意味する。バランスを支えること自体に意味を見出していた、そしてそのような意味を見出して当然と思われる日中から、最も主要な1国、中国が脱落し、それに代わったのが「投資家群」、ということである。

このことが、何を意味するか。環境次第で、その行動が大きく変わる主体が、一方の担い手の主要な1つとなった、ということであろう。

米国の巨大な赤字垂れ流しと日本のそれの尻拭いは変わらないとしても、もう1つの尻拭いをしていた経済、最も強大であった尻拭い国の中国が、その役割から離脱した、あるいは離脱しつつあるというのである。市場本来の機能が、本格的に機能し始める可能性、そして、それゆえ、世界経済の大変動が生じる可能性が、本格的に始動し始めたといえよう。

すなわち、アメリカ国債の大暴落の可能性、これが現実化し始めたとも言える。2008年のリーマン・ショックは、アメリカ経済内の不均衡が世界経済に巨大なショックを与えたものといえる。だが、世界経済の再生産の枠組みそれ自体は、大きく変わることがなく、米中の関係にも変化がなく、中国経済が下支えしながら、米国経済の大幅経常収支赤字をそのまま支え続ける形で、世界経済は新たな発展の道を歩み始めることができた。

しかし、今、世界経済の基本的なバランスそのものが大きく崩れる可能性が生じた。バランスが崩れた後の再建の道、今回の構造変化によって世界経済が行き詰まったときの後のそれは、どのような形で、どのように用意されるのであろうか。私には見えない。

FTのこの論考は、中国経済のアメリカ経済離れ、それが持つ深刻な意味、それを暴露した論考といえよう。それでも、アメリカ経済は経常収支赤字を、米国債を、買い支えること自体に利益を感じていた中国政府ではなく、普通の投資家群に売ることで、ファイナンスし続けようとしている。そして、トランプ米国大統領は自らが勝手に始めたイラン戦争をやめられず、米国経済の経常赤字の一層の巨大化に貢献し続けている。それどころの状況ではないはずなのに。

 

中国政府が売りに出し、持分を大幅に減らしている米国債、他方、英国ロンドン市場で大量に売られながら買われもしている米国債は、各国の政府ではなく投資家群が購入しているようである。中国政府が密かに買い戻しているのではないかと思った私は、極めて浅慮であった。また、いまだに膨大に米国債を抱えている日本政府は、大損の可能性にさらされていることにもなる。リーマン・ショックのときは、日本・中国両政府ともに、米国債を大量売却することはなかった。しかし、今、中国政府は米国債を大量に売り(抜け)、持ち高を大幅に減らしつつあり、同時に大量に金を買っている。

日本政府は・・・。日本政府は、米国債暴落の泥を被る覚悟をし、米国と心中するつもりなのであろうか。あるいは、日本一国だけで、米国債を買い支えることができると、踏んでいるのであろうか・・・。

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