2026年7月27日月曜日

7月27日 ロシアの対ウクライナ侵略による 非工業化と最先端工業化への分岐

旧ソ連の流れを汲むロシアの工業と

ウクライナの工業の今後 

ロシアの対ウクライナ侵略による

    非工業化と最先端工業化への分岐

 

そして、中国向け一次産品供給周辺国ロシアへと、

   欧州先端工業化の主導国ウクライナへの分岐か?

 

渡辺幸男

 

ロシアの非工業化

ロシアの工業がどう展開するかは、ここ数年の私の「課題」であった。偉大なロシア「帝国」の再建を夢見るプーチン大統領のロシアによるウクライナ侵略の足下で、ロシアの経済はどうなり、その中核を占めるであろう産業、特に工業はどうなっているのであろうか。これが、工業経済論の視点から中小企業を考えてきたかつての研究者、私、渡辺幸男の近年の「研究」「課題」である。

 日本の工業発展の論理を、私なりに理解したつもりになり、また2000年代には中国の工業発展について、それなりの結論を手にし、それぞれ単著を書いた。その後、最も気になってきたのが、ロシアの工業の現状である。

 私は、ロシアの工業の近年の展開を、「非工業化」、(それなりに先端的であった工業が衰退し、一次産品中心のそれなりに豊かな国という意味でだが)、この概念で総括できると考え、ブログにその根拠を私なりに述べてきた。

 

 しかし、具体的なロシア工業の展開についての紹介と分析は、少なくとも日本語での情報としては、極めて限られている。確かに、マクロの数字、例えば工業生産指数のようなものは、それなりに紹介されている。それによれば、ウクライナ侵略が本格化したのち、かなり伸びたものが、近年停滞気味となっていると言った状況のようである。しかし、そのような工業全体の生産量の推移の数字からは、その内実、どのような工業部門のどのような技術に裏付けられ、世界市場でどう評価される工業分野の製品の生産が伸びているのか、と言った情報は、全く伝わってこない。

 同時に、中国から近年伝わってくる、工業の最先端分野での新規注目企業の登場というようなことも、ロシアからはほとんど聞こえてこない。

 

 そのロシアの工業生産が、ウクライナ侵略により軍需があり、豊富な一次産品の輸出が、依然としてそれなりに可能であるにもかかわらず、ここにきて、停滞してきているという、マクロの数字が出てきている。これをどう位置付けることができるか、どう読むべきか、興味深い論点ではある。

 1つには、一次産品の輸出だけでは、ウクライナ侵略のための軍需生産に必要な財や資本財の輸入資金を賄うのに不十分になった、という可能性が示唆される。「非工業化」が進んだ、極端に軍需製品、その完成品の生産のみがロシア国内で可能となっていると思われるロシアゆえに、部材の輸入に必要な外貨が不足する、すなわち部材獲得に必要な資金を、元来は豊富な一次産品の輸出をもってしても、十分には調達できなくなってきた、ということを示唆しているのかもしれない。軍需生産の対する需要は、ウクライナ侵略のための軍機の消耗ゆえに、ほぼ限りなく存在すると言えるのであるから。

 

ウクライナのドローン産業の最先端工業化

 それに対して、ロシアに侵略されたウクライナが、ここにきて戦時経済下で興味深い動きを示している。北海道大学の服部倫卓氏の議論を紹介する形で、このブログでも取り上げたが、かつてロシアと同様に、旧ソ連の遺産、非競争的国有大企業中心のそれなりの先端工業であり、コンコルドスキーと揶揄されたように、欧米の先端工業製品を追いかけ、その真似を国有大企業中心に進める、イノベーションを産まない、国際競争力を持ち得ない「先端工業化」の実現であった旧ソ連の伝統を引き継いだウクライナの工業出身の人材が、ロシアの侵略下で、兵器生産において、新たな本格的な最先端工業的展開を、ベンチャー企業の簇生を通して、示し始めたというのである。

 それがウクライナでの兵器としてのドローンの独自な発展である。いかにロシアに対抗していくかの模索の過程で、今もロシアで行われているような、旧来の他国で開発されたドローンの利用ではなく、戦略の必要に合わせ新たに独自製品を開発するという、独自の模索が、多様な主体のもとで社会的分業を活かし行われ始めているようである。結果、他国にみない今の対ロシア戦に必要な独自の機能を持つドローンを、旧国有大企業ではなく、多数の新興ベンチャー企業が中心となって、水平的そして垂直的社会的分業を活かし開発している、というのである。

 

 戦争を契機として、戦争初期の厳しい状況を持ち堪えた、被侵略国であるウクライナが、危機的状況の中で、新たなニーズに応える形で、新たな開発主体を生み出し、その主体群が旧ソ連以来の技術者達を活かし、多様な先端ドローンを開発し、それが対ロシア戦線での新たな可能性を、ウクライナにもたらしているというのである。

 

 大いなる歴史の皮肉というべきなのであろうか。ウクライナの自立化を嫌い、ロシアへの属国化を目指して、傀儡政権を樹立すべく侵略を開始したプーチン大統領、結果は、侵略者プーチンの思惑と大きく外れた。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ベラルーシのルカシェンコ大統領のようにプーチンに屈服することもなく、また傀儡政権への交代も生じず、全面的な戦争となった。このロシアによるウクライナ侵略を、ウクライナが4年以上持ちこたえたことで、旧ソ連以来、ロシアと共有していたウクライナの工業のあり方を、全面的に変えることとなったと、言えそうなのである。

チャンピオン企業をまずは選択し、その企業の育成、最先端工業化に努めてきた欧州諸国、そのほとんどは最先端工業化に失敗したと、私には思える。ウクライナでのベンチャー中心に新たな最先端工業形成を主体的に行っていくことのできる工業企業群の形成は、そのような欧州にとって、新しい現象といえよう。欧州における、新たな本格的最先端工業化の新たな担い手群の形成にもつながる現象とも見えてくる。中長期的には、この経験が、ウクライナ経済の欧州化の中で、全く新しい意味を持ち始め、EU市場でのウクライナ工業の新たな展開を可能するように見えてくる。そして、今や、ドイツを含め、中国工業企業の進出に悩む、欧州工業全体の再活性化にもつながるのではないか、とも思えてくる。

 

プーチンのウクライナ侵略が生んだ皮肉な結果である。旧ソ連工業の流れを汲む国有大企業中心だった、欧米の先端工業に追随するだけだったウクライナ工業が、欧州工業最先端化の担い手として、その欧州工業先端化の可能性を生み出す牽引者となるかもしれないのである。

「非工業化」の道を突き進むロシア工業、それに対する欧州の最先端工業化の牽引役となりつつあるウクライナ工業、その別れ道が、今作られつつあると、私には思えてならない。どうであろうか。5年先を見てみたい。

  

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