Cook, C. ‘Chinese companies push up price of Russia’s war supplies’
FT, 25 Nov. 2025, p.3
を読んで 渡辺幸男
ロシアによるウクライナ本格侵略開始後の中露貿易の動向が、機械工業関連について紹介されている記事である。その小見出しでは、「中国の輸出業者たちは、ロシアの軍需産業関連バイヤーに対する価格を引き上げ、西側の制裁で輸入を制限され、彼らの供給に依存せざるを得ないことから利益を得ている、と新たな調査研究が明らかにした」としている。
具体的な中身として、特に機械・同関連産業に分類されるような戦争遂行に不可欠であるような製品について、西側の制裁は、輸入製品の価格をより高価にすることで、ロシアの物的生産能力を制約しているとしている、という報告を紹介している。
その中でも、特に私が注目したのは、中国からロシア向けの「ボールベアリング」の輸出についての数字である。2021年と2024年とを比較し、ロシアの中国からの輸入金額は76%増大しているが、中国からのロシア向けの輸出量はその期間に13%も下落している、という指摘である。機械や兵器生産において不可欠な部品であるボールベアリングの中国からの輸入金額は急増しているのに、中国からの輸入数量は逆に減少しているのである。ボールベアリングの単位あたりの価格が倍増しているにもかかわらず、輸入の拡大にはつながっていないということを示唆している可能性が高いといえよう。
これをどう見るべきであろうか。
ベアリングは、機械や兵器の生産には不可欠な部品である。また、中国政府ないしは中国企業が、主体的に輸出を制限しているということは考えられにくい。そうであるならば、可能性の1つとしては、中国製のベアリングの価格が急騰し、ロシアが他国からの調達を行い、中国製品の価格が高止まりしながらも、調達先代替により中国からの調達が減少している、ということがありうる。いま一つの可能性は、戦時下にあるロシアだが、輸入原資が不足してきていて、思うように輸入量を増やすどころか維持することさえできなくなったということが考えられる。さらには、ロシア国内での機械や兵器の生産それ自体の水準拡大どころか維持さえ困難となり、部品としてのベアリング需要が減り、中国からの調達も縮小したという可能性も考えられる。
制裁に参加している西側諸国以外で、機械や兵器に使用可能なレベルの部品を大量に供給可能で、中国からの調達に量的にも代替可能な工業国は、果たして存在しているのであろうか。この記事にも書かれているように、制裁に参加していない国からの輸入の価格は、対中国と同様に価格上昇しているようであるから、供給面での中国からの代替国の存在の可能性については、必要量の巨大さという面から見て、ほぼ不可能ではないだろうか。
そのように見てくると、ボールベアリングの中国からの輸入量が縮小しているということは、ロシア側での理由によるのではないかと考えられる。戦時下であることから、ロシアの機械工業や兵器産業という、戦時体制を物的に支えるロシア内工業生産に対する需要が縮小するということは、ほぼあり得ないであろう。あるとすれば、生産体制そのものを制約する状況の発生か、部品調達をする際の輸入原資の不足の発生か、のいずれかということになろう。私には、物的な生産能力そのものが限界にきて縮小するということよりも、輸入原資の不足の可能性が、理由として大きいと考えられる。
他の国からの輸入価格も急騰していると、この記事の最後に触れられていることからも、輸入原資の不足の可能性は高いのではないだろうか。原油や天然ガス等の輸出による外貨の獲得、それらも欧州への輸出等の制裁による制約強化で先細りである。他方で、国民の生活水準を維持するための消費財等については、それらの輸入水準を維持しながらのウクライナ侵略遂行が必要である。すなわち生活水準切り詰めを伴う本格的戦時体制への移行へについては大きな制約がある。その中で、外貨獲得機会の縮小が響いてきたのではないか。こんなふうに考えるのであるが、如何であろうか。
ウクライナにとって、ロシアの侵略に対抗することがますます困難になってきていることは確かなようであり、その結果として米国トランプ政権の強引な和平案にも、一定の理解を示さなければならないような状況に、ウクライナ政府は陥っているようにもみえる。しかし、同時に、ロシア側も、ロシア国民の許容範囲でウクライナ侵略戦争を実行していくこと、プーチン大統領側の強気姿勢にも拘らず、これも困難になりつつある。このようにも見えてくる。
ロシア側の兵士の人的損害の多さが指摘され、徴兵の本格的実施への制約等で、それが侵略戦争遂行の難しさをロシア側にもたらしているということであるが、同時に、ロシア政府は資金面でも侵略続行のための限界にぶつかりつつあるのではないか。このような示唆を感じさせるFTのこの記事である。
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