2025年11月29日土曜日

11月29日 FT記事 ‘VW says EV production costs halved with car engineered entirely in China’ を読んで

 White, E., K. Inagaki & S. Ash,VW says EV production costs halved with car engineered entirely in ChinaFT, Nov. 2025, p.1) を読んで 

渡辺幸男

 

 またまた興味深い記事がFTに掲載された。VW2030年までにドイツ国内のVWの自動車工場勤務者を35千人減らす一方で、同社の自動車の新車開発については、同社としては初めてドイツ外、それも中国で全面的に行う、というものである。

 ドイツと中国の資本財の貿易関係で、ドイツの出超から中国の出超へと逆転が生じたという記事がでて、まだ間もないのであるが、今度は、欧州一の自動車メーカーVWの新車開発拠点が、全面的にドイツ外に、しかも中国に出ていくという記事である。

 

同社によれば、2023年の時点で、ドイツでEVを開発し生産するのに比して、中国でのそれは50%ほどコストが安いと述べている。労働コストの低さもあるが、バッテリー調達のようなサプライ・チェーンの効率性や開発期間の短さにより、それは生じていたとしている。そのため、VWは安徽省の合肥市に開発センターを作り、数十億投資したとのことである。

VWは現在中国の内燃機関による自動車市場では約20%のシェアを保っているが、EVやプラグインハイブリッド車生産では、中国市場で上位10位以内にも入っていない。しかし、中国EV市場での生き残りのために、2022年末以来、VWはほぼ40億ユーロを投下してきた。今月、同社は自動運転のためのAIを、他社と共同で開発に成功したと発表している、と記事では述べられている。

 

ここでも、「VW、お前もか」というのが率直な感想である。

欧州最大の乗用車メーカーが、生き残るために、ドイツでの労働者大幅削減と、中国での本格的開発拠点形成、そして中国での巨大投資実行、これも、資本の論理としては、ある意味当然であろう。自社の海外主力市場でのシェアを維持するために改めて本格的投資を行い、同時に停滞気味で高コストの出自国での生産は縮小する。しかし、それがVWであり、中国市場であることに、あらためて感慨深いものがある。

VWは、早くから中国市場に進出し、そこでの優位を確立し、中国市場の成長につれ、自らの販売を拡大し、中国市場を主要市場とする企業となっていた。しかし、開発等については、基本的にドイツ国内中心だったはずである。それが、なのである。ドイツの高い工業水準を背景に、その先端企業として世界市場で覇者となっていたVW、それが、中国でも多額の金をこれから投資し、全面的な開発拠点を設けるのみならず、本国での自社雇用労働者を大幅削減しながら、それを実行するというのである。

中国市場の将来性に、自社の命運を賭けたのであろうか。ヨーロッパの「お山の大将」が、生き馬の目を抜く中国市場の激しい競争と、そのもとでの急激な状況変化についていけるのであろうか。戦後欧州市場のような、競争相手が見えるような相対的に安定的、徐々に拡大し変化する巨大寡占市場ではないのが、今の中国市場である。VWが中国市場に本格進出した改革開放期の中国市場でもない。中国の各製品の市場は、巨大な国内市場を前提に、多様な多数の企業が生き馬の目を抜く競争を繰り返し、勝者が常に入れ替わるような市場である。中国自動車市場も、EV化することで、このような中国市場の中での例外的な市場とはいえなくなっている。このことを如実に示したのが、新興企業であるBYDEV市場での、当面の勝利であろう。

こんな市場にかけるだけの力は、中国市場に精通しているはずのVWであっても、外資であり、欧州の寡占間競争の中で生きてきたVWにあるのであろうか。それとも、欧州市場そして中国市場でVWとしてジリ貧の中では、それでも中国市場に賭けざるを得ないのが、今のVWなのであろうか。

 

それにしても、巨大市場としての中国の形成の上での、中国の開発拠点としての有効性を含めた工業生産地域としての成長、これには瞠目すべきものがあるといえよう。労賃が相対的安いのは、これまでの経緯からわかりやすい点である。しかし、関連産業、サプライヤー層の充実、それも新製品開発を含めてのそれは、かつては考えられなかったことである。ましてや、開発期間が半分で済む、これは中国のここへきての基盤産業の充実そのものの成果と言える。これからの国際競争力形成において、主要なあるいは最高の開発拠点に中国がなる可能性が高いことを、この記事で紹介されているVWの行動が、あらためて示唆しているのではないか。このように考えざるを得ない。

 

このことの持つ意味は大きい。これまで、アメリカがヨーロッパに無い巨大な一国市場であり、そこでの先進分野形成が、世界の資本主義の産業発展を牽引してきた。今も多くの分野で牽引している。その牙城を1億人余の国内市場規模の日本経済・産業は突き崩すことはできず、最終的に米国市場に依存する先進工業国の一つに到達するにとどまった。その米国経済、米国市場と並び立つ、世界経済・市場と技術開発の両面で世界産業を主導する国民経済に、中国経済が名乗りを上げている、と見ることもできそうである。それが今回のVWの行動にも現れていると私は感じるのであるが、いかがであろうか。

 

中国経済での国内市場は、自動車でいえば年間3千万台規模となり、かつてどこにもなかった巨大な国内市場を前提とし、先進的技術に基づく、新規参入企業も含めた激しい企業間競争をしている。そして、その前提として、多数の新規参入企業を許容する資金調達構造の存在、これらは現代中国の市場経済の特徴と言える。まさに、中国資本主義のダイナミズムを生み出している、基本的な要因であるといえよう。

世界最大規模になったような企業が、国内市場で寡占的市場支配を実現できないのが中国市場の大きさである。世界最大規模に巨大化した企業が、競争的なまま国際市場にも進出するのが、中国先進企業の現実といえよう。市場の大きさと、それとともに技術変化の激しさとから、いまや中国経済では「GM」のような存在は生まれないのではないか、そんなふうに思われる昨今である。

0 件のコメント: