2017年10月1日日曜日

10月1日 小論 FT記事「インドの(中)小企業にシャッターが降りる」を読んで

Financial Times記事 「インドの()小企業にシャッターが降りる」
Amy Kazmin,  Saurabh Mukherjea “Shutters fall at India’s small enterprises
 (2017929日、6ページ)を読んで  渡辺幸男

 2つの小見出しは、以下のごとくで、後者は発言の引用のようである。
Two financial shocks risk biggest economic shake-up in decades, say analysts
  For a substantial number of SMEs their margin was tax evasion’ ’
 この記事では、昨年末以降に、インドでの最大の経済変動をもたらす2つのショックとして、高額紙幣流通禁止政策と新物品サービス税導入を取り上げ、インド中小企業への影響をみている。
 具体的には、12名を雇っていて、compacting machines(圧縮整形機?)を月に6台生産していたメーカーが廃業に至った例を取り上げ、その際に上記の2つの政策が決定的であったとしている。その上で、これは、これまで納税等を免れていたインドの()小企業(small enterprises, small business)にとって、決定的に重要な政策変更であり、存亡の危機に多くの()小企業があるとしている。
 また、()小企業中心に、「1月から4月で、モニターリング・インディア・エコノミーによれば、インドでは150万人分の職場が減少したと推計され、エコノミスト達は一層の減少は不可避と思っている」とも述べ、他方で、「大企業がその隙間を埋めるかもしれないが、機械化されており、それが取って代わる作業より、より少ない数の雇用しか生まない」としている。
 その上で、私にとって極めて興味深いのは、以上の次に書かれている、以下の文章である。それによれば、「()小企業閉鎖はより一層の輸入促進につながるであろう。特に中国からの輸入が増えそうである。4月から6月までの四半期で、インドの経常収支の赤字はGDPの2.4%、140億ドルに広がった。これに対し、昨年の場合GDPのちょうど0.1%の赤字だった。これは主に消費財や部品の輸入の急増によって生じている」ということである。
 
 インドの中小零細企業が担っていた製造業業務が、高額紙幣の廃止による現金取引の激減と税制改革の結果、全体として急激に縮小しているという話であり、その縮小を大企業が代替する可能性とともに、中国からの消費財や部品の輸入の急増が補完している可能性が大きい、という記事である。
 そこから見えることは、インドの中小企業が担っていたような製造業製品市場は、中国からの輸入品としての消費財や部品とも競争関係にあるということである。柳澤遥氏(柳澤遥、2014)が述べられていたような、インドのインフォーマル部門が担っていたような部分を含め、インドの製造業の中小零細企業層が、層としての大きさとその大きさの再生産のためには、税制上の扱い等、大企業とは異なる環境を与えられていたことが大きかったことが推測される記事でもある。同時に、そのような底辺の低価格品市場の担い手が縮小すると、その代替者として中国からの輸入が目立つということは、市場としてのインドの低価格品市場が、中国等で生産される低価格品と同一の市場であり、かつ、税制上の優遇等の結果として、これまでは中国等からの輸入に対抗しえていた、ということができよう。私が先のブログで述べた低価格品市場のグローバル化、それも中国製の製品を通してのグローバル化の一端が、ここでも税制の変更を契機に表面化したとも言える。
 柳澤遥氏は、インドのインフォーマル部門の発展を、ある意味自生的かつ自立的な下からの工業化として把握されていた。そのような担い手が、国内フォーマル部門との競合に曝されているとして、同氏の著作を締めくくっていたが、フォーマル部門との競合下でも生き延び、存在感を示してきたインフォーマル部門が、グローバル市場での競争によって最終的に縮小をしいられる、といった筋書きをこの記事は反映しているのではないかと、私には考えられる。
 もしそうであれば、柳澤遥氏が想定していたインドの工業化のもう1つの自立的な発展の道は、フォーマル部門のみならず、中国からの輸入によって、今後の発展の担い手としての可能性という意味では、最終的に閉ざされることが示唆されることになる。
 中国企業製品の低価格工業製品グローバル市場での優位が、改めて感じられた記事でもある。

参考文献

柳澤遥、2014『現代インド経済 発展の淵源・軌跡・展望』名古屋大学出版会

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