中国の巨大市場が意味するもの
日経記事とFT記事を読んで考えたこと
日経記事、中山淳史「中国からやってくる「規格」」
(日本経済新聞2018年1月24日朝刊、p.6「Deep
Insight」)
FT記事、B. Bland ‘China
face scan start-ups capture a lead’
(Financial Times, 25 jan.2018、p.14) の2つの記事を読んで
はじめに
上記2つの新聞記事は、中国企業の動きと中国市場のあり方をめぐる記事である。日経の記事はアリペイに日系企業が開発したQRコードが採用され、そのアリペイが日本へも進出することに絡む記事である。FTの記事は、香港出自で中国市場で急成長している顔認証のベンチャーとしてのセンスタイム社の話で、日本市場進出やホンダとの提携の話にも触れられている。
両記事とも中国での中国企業の新技術開発と中国市場の関係、そして日本進出に絡む議論であるので、両者について紹介し検討した上で、この2つの記事から読み取れること、私が読み取ったことを、以下で記したい。
1、
日経記事、中山淳史「中国からやってくる「規格」」
1)
その内容
本記事は、まずは中国で普及したスマホ決済の「支付宝(アリペイ)」、を紹介している。その上で、その核となるQRコードが、日系企業としてのデンソーが開発したもので、その普及のために、デンソーはその技術を囲い込まず、ソフトを無料で公開したことが、国内での普及に効果があったと、指摘している。そのQRコードは、2010年にアリペイに使われるまで、海外に広がらず、「ガラパゴス技術」とも言われてきたことも紹介している。同時に、無料ソフトであって、かつ安全性が高かったゆえに、2010年にアリペイに採用され、一挙に中国で普及したと述べている。
その上で中山氏は、何故、日本でアリペイ以前に金融サービスでのQRコードの活用が進まなかったのかを問うている。これまで銀行が独占してきた決済サービスを、IT企業が担える規制緩和が中国では実施されたからこそ中国で普及し、緩和されなかった日本では普及しなかったと、考えているようである。
アリペイの例を踏まえ、「中国の13億人もの人口を生かし「ビジネスモデル」の電池規格で、中国政府が中国系企業の開発した電池を優先する可能性に言及や「規格」で日本を脅かす事例は今後も増える」と指摘する。その上で、EV用の電池規格で、中国政府が中国系企業の開発した電池を優先する可能性に言及している。そして、中国は「「規格大国」に生まれ変わろうとしている」とし、デファクトスタンダードやデジュールスタンダードをめぐる争いの「本当の競争相手は、中国の政府・巨大企業になる可能性が高くなっている」と結んでいる。
2)
記事への疑問
この記事での私の最大の疑問は、デファクトスタンダードやデジュールスタンダードをめぐる争いの「本当の競争相手は、中国の政府・巨大企業になる可能性が高くなっている」という結論である。本当であろうか。規格間競争でデンソーが開発したQRコードは敗退し、グローバルスタンダードになり損ねたのではない。逆にアリババ系のアリペイによって当初は中国市場向けに採用されたことで、グローバルスタンダードの道を歩むことになったと見るべきである。
これまでも、中国市場での新たな業界標準が形成され、それがグローバル市場のそれへと展開してきた。メディアテックは台湾系の半導体開発ファブレス企業である。このメディアテックが開発したCPUが中国の山寨携帯電話市場での携帯電話開発のプラットフォームとなり、グローバルに低額携帯電話の市場を開拓することになる。この流れは、スマホでも生じており、メディアテックとともにクアルコムも、中国市場の新興企業向けにCPUを開発し、新興の主要中国スマホメーカーにとってのプラットフォーム化に成功し、巨大な市場を確保し、グローバルスタンダードの道を歩んでいる。
中国での2000年前後からの電動2輪車の急激な生産拡大と普及、その産業の巨大産業化の担い手も、国の主導で生まれたのではなく、規制の外側で勝手に誕生した新生企業群である。既存の企業の持つ技術を生かし、新興企業群が一気に巨大な市場を国内中心に開発し作り上げた。その市場への参入に成功した、日系の自転車ブレーキメーカーの中小企業である唐澤作所の現地関連会社は、電動2輪車の主要ブレーキメーカーとなり、現地では大企業化している。
このような事実から見えてくることは、中国政府の主導権や中国(国有)巨大企業の主導性が持つ重要性ではなく、中国市場での新市場の発見と主導的構築者であることの重要性である。
中国企業は、既存企業特に民営や地方国有の既存企業もそうであるが、それだけではなく、新規参入を目指す起業家を含め、多数の企業や起業家が新規市場の発見に努め、開拓を主導しようとしている。それに成功すれば、スマホでの小米、OPPO、Vivoといった新興企業3社のように、全くの新規開業だったり、地方の無名企業であったりしても、一挙に、巨大な市場を主導する巨大企業へと変身することができ、小米がそうであるように、さらにはグローバル市場でのプレイヤーとなり多国籍大企業化することも可能となる。
3)
私の理解
このような状況から示唆されることは、規格間競争で最も大事なのは、当たり前のことであるが(デファクト)グローバルスタンダードになることであり、そのための最も近い道は、現代では、中国市場での覇権の獲得である、ということである。このような理解からいえば、QRコードの例からの示唆は、日本国内で覇権を握っても、「ガラパゴス技術」としか言われないが、中国市場で覇権を握れば、グローバルスタンダードへの道を開拓したことになる、ということを示しているといえよう。
同時に、このような事実は、中国政府や既存中国巨大企業特に国有巨大企業だから、中国市場で覇権を握ることができる、ということでもないことを示唆しているのである。すなわち、中国市場で覇権を握る技術には、国籍はとりあえず関係ないということも、QRコードが示唆することでもあろう。中国系企業も、同様な技術を開発したが、自社の技術が安全性の面で劣っていたゆえに、無料だが、海外企業が開発した技術を全面的に金融取引の中核技術として、アリペイすなわちアリババ集団は採用したと、本記事も述べている。中国系企業のうち積極的に新市場を開拓する企業は、中国系企業の開発した技術優先ではなく、費用対効果から見て優位な技術を採用するということである。これこそが中国民営企業の一般的な姿である。また、中国新市場の発見開拓の主体は、アリババや小米がそうであるように民営企業であり、民営企業を中心とする新興企業である。既存の国有巨大企業は、多数存在し、高い収益性を誇っているが、決して中国市場での新市場の発見や開拓の担い手の中心的存在ではない。中国政府もその点には気がついており、民営企業や新興企業の活動を抑制せず、電動2輪車に見られるように、後追い的にその存在を追認し、それらの成果を活用していると言える。
このように見てくれば、日系企業にとっての問題や課題は、規格間競争で「今後の本当の競争相手が、中国の政府・巨大企業になる可能性が高くなっている」ということではない。そうではなく、中国市場で自社の規格の優位を実現し、覇権を握ることこそが、日系企業にとってグローバル市場での規格間競争に勝利する1つの大きな道であるということであろう。QRコードのように中国市場で勝利すれば、「ガラパゴス技術」状況を脱し、グローバルな存在となりうるのである。
4)
もう1つの論点
同記事が、「銀行や他の産業はなぜアリペイより前にQRコードの簡易性や将来性に気づけなかったのか。IT企業が既存の金融サービスの秩序を脅かす可能性がある点に、なぜ想像を巡らせなかったのか。問われるのはそこだ」と述べている点が、2番目に気になった点である。
金融システムに取り入れることで、既存の支払いシステムが無意味化する可能性が存在する。まさにアリペイはそれを示しているといえよう。しかし、同記事でも「中国でも銀行の反発はあった」と紹介しているように、既存の金融システムを構築している銀行にとって、簡易な新たなシステム、それも金融機関以外が参入可能なシステムが構築されることは、既得権への侵害であり、最も避けたいことである。
そのような既得権の維持が、日本の金融システムでは可能であったこと、また、多くの日本人がクレジットカードを持ち、銀行口座を使った決済に馴染んでいるという状況が存在している。すでに一般の多くの人々が支払いのために必要とするクレジットシステムの利用が可能となっている。それゆえに、既存の馴染んだシステムを破壊するような新たなシステムの導入の必要性を強く感じていなかった。このような状況が、既存の金融システムへの異業種企業の参入を忌避する銀行の姿勢と重なり、海外からの「規格逆上陸」を待たなければ、新たなシステムの利用に至らなかった、ということであろう。既存のシステムの普及が、次世代のシステムの可能性を閉塞させる、好例といえよう。
同じようなことは、携帯電話の普及においても生じている。既存の有線の電話システムが普及していた日本では、有線電話を補完する機能として携帯電話が普及し、その使用のあり方も規定してきた。しかし、有線の電話システムも普及していない地域であれば、有線電話を先行的に普及させ、携帯電話のシステムをその後に普及させるといった、日本のような状況を経過する必要はないことは、有線の敷設コストを考えただけでも、理解可能であろう。しかし、日本でそうであったように、有線電話がすでに普及している地域では、有線電話の存在が、携帯電話の一挙普及を抑制することになる。既得権としての有線電話会社が存在し、それの利害、有線網を維持することを前提にした、携帯電話の導入が図られることになる。
それに対し、有線電話が普及していない地域であれば、そのような利害の対立は、そもそも存在せず、携帯電話網の敷設の論理が、ストレートに反映した敷設が可能となる。その上で、携帯電話ゆえに可能となる種々のサービス提供も、一挙に進むことが可能となる。
5)
以上からの示唆
既存のインフラが堅固に存在する経済では、新たなシステムの構築は、極めて困難な道をたどることになる。既存インフラを大きく超える要素が、質的にあるいは価格的に、存在しなければ、既存インフラに代替する形としては導入は徐々にしか進まない。本記事の場合は、既存の金融インフラを提供する銀行側にとって、金融機関が関わらない形で決済システムが普及することを阻止のは、特に難しいことではない。しかしながら、既存インフラの普及がわずかであるところで一挙にメジャー化した新たな代替的インフラが、他の巨大市場で形成された場合は、大きく異なることになる。規模の経済性をもすでに実現した新たな社会インフラが、一挙に既存インフラ支配の国民経済に参入することになる。
それが今、アリペイの形をとって、日本に上陸したのである。私の理解では、既存金融機関の方は、既存の金融インフラがしっかり機能している限り、新たな外部の決済インフラが形成されることは想像できないし、実際に国内的には形成阻止は、阻止を意図するかどうかに関わらず、新しいインフラの普及過程での既存インフラとの競合が生み出す困難さゆえに、容易とも言える。
しかし、既存社会インフラの形成が遅れていた中国のような巨大市場では、一挙に新世代の社会インフラが普及することが生じやすい。その結果、広範に普及した新生インフラをめぐっての新サービスの開発も、このような既存社会インフラの普及が不十分であった巨大市場経済で、一挙に進む可能性が高い。中国市場での競争優位が、新規格での競争優位につながる可能性が高いのは、既存インフラが存在しない巨大市場で、新世代インフラの急激な普及が生じていることによるのである。
それゆえにこそ、最初の論点に戻れば、中国で新規格を普及させることを意図することが、より有効であることと言える。巨大な市場が一挙に形成されながら、種々のインフラが未整備であった中国市場は、巨大な可能性を持つ「規格」が、巨大な既存インフラの存在をほぼ意識せずに、新事業、新インフラとして普及し、その普及を他の市場に見られない勢いに加速させることができる。アリペイのように、これまでの支払い網と対立するような新規格は、既存の支払いインフラの普及が不十分な社会だからこそ、一挙に新世代のインフラの支払いインフラとして普及し、巨大市場の標準規格となった。また、成熟工業国での普及に先行したのである。結果、巨大国内市場を背景とした中国育ちの規格がグローバルスタンダードになる。中国生まれかどうかは別として、QRコードのように。
このように見ていくことができよう。
2、
FT記事、B. Bland ‘China
face scan start-ups capture a lead’
1)
記事の要約
本記事の小見出しは‘SenseTime
and rivals race ahead helped vast data sets and state disregard for privacy’
という内容である。本記事は、顔認証技術での中国企業、特に、中国でのAIでの先進新規創業企業群の1つ、SenseTimeの優位性の理由について議論している。その優位性の証拠として、同社によれば、同社の顔認証システムは、1月の間に、69名の容疑者を逮捕できたとし、これは、人間が中国中のカメラをみて調べても不可能だというのである。また、SenseTimeは、4億5千万ドルをベンチャーキャピタルやクアルコムから調達したとし、20億ドル以上の価値があるとしている。
これらの企業が中国で急成長できているのは、他方で、中国政府の後ろ盾とプライバシーへの関心の薄さにもあるとする。また、5億人といったレベルの顔認証のデータの豊富さも重要である。これは米国企業にはできないとも言われている。例えば、SenseTimeの場合は、チャイナモービルと組むことで3億人分の顔認証を実行している。これをSenseTime側の分野にも応用し、例えば、顧客の商品購買の支払いを顔認証でするようなシステムを開発している。香港で会社登記をしている同社だが、中国本土でもっぱら展開し、自動運転でホンダとも提携している。また、広州の警察当局とも提携するとともに、OppoやVivoなどのスマホメーカーとも提携している。
現在海外からの売り上げは13%に留まるが、日本やシンガポールに子会社を設立するし、海外展開をすることも考えている。また、中国外では、プライバシーの問題で普及が困難であるという意見も存在する。しかし、同社は、データを集める能力を生かし、人手がかかっている部分の改良や無人化にその展望を見出しているとしている。
2)
この記事が示唆すること
1つは、AIのベンチャーが多数、中国では生まれ、多額の資金を中国内外から集めていることである。第2は、顔認証システムでも、実用化している部分が多く存在し、その担い手は新規創業企業であることである。3つ目は、中国市場の持つ独自性、巨大さとプライバシー等への関心の薄さが、より実験的な行動の実用化を促進していることである。さらには、これらの中国企業は、中国内外企業と連携し、海外市場へも積極的に進出しようとしていること、これが4つ目の点である。
無数と言って良い新興企業群によって、巨大市場を活用し、新技術の実証実験が多様に多数行われていることが、これらから示唆される。しかも、そのような参入のための資金調達は、積極的なベンチャーキャピタル側の競争で、高額な資金がより容易に調達可能となっている。また、試行錯誤が多数行われうるということは、多数の失敗が生じるとしても、そして実験の成功が少数派であったとしても、絶対数としては多数の成功を生み出すことになる。
今の中国は、そのような試行錯誤による失敗を社会的に許容する状況にあり、顔認証ベンチャー企業群も、そのような環境の中で、輩出し急成長しているといえよう。
3、2つの記事から考えたこと
中国市場の意味について、私がこれまで考えてきたことを、改めて確認できた2つの記事であった。
中国経済では、これまでも種々な新市場の形成が生じ、中国経済の「先進性」ないしは「先行生」を強く感じていた。これが、また、新たな支払い手段の普及や顔認証の広範化で確認された。これらの新技術の急激な普及による、新市場の開拓は、ICTがらみの技術開発でも、新たな市場の開拓、急拡大が生じている事例ということができよう。
このような新市場の開発急拡大が相次いでいる背景には、中国国内市場の持つ巨大さ、今回の事例のプライバシーへの配慮の弱さに見られるような社会的な規制を含めた規制の小ささ、ないしは少なさがあるということが、改めて具体的な事例を持って示されたと言える。もう1つ重要なのは、特定技術ゆえに優位に立ったような既存巨大企業の制約が弱く、かつ新規創業企業を含めた競争が激しいことにより、採用される技術は出自を問われることがなく、費用対効果で評価され採用されている、ということである。あるいは、激しい競争の結果、そのような出自を問わず費用対効果で新技術を選択した企業が覇権を握り、当該技術が支配的になる、という可能性の高さである。
さらに、私にとって、今回の2つの記事から改めて感じ取ったことは、相変わらず新技術の導入、新市場の開拓拡大に、新規創業企業が活躍し、それらの多くで主役も新規創業企業群であるということである。新規創業企業といえども、VCや既存巨大企業からの出資を受け、当初より多額の資金を確保し投入できる環境の存在も、改めて確認された。2つの記事が示していることは、現在でも中国経済では、多様な新市場が新規創業企業も含めた企業群によって開拓され、激しい競争が新市場開拓、拡大化でも生じているということである。
このような激しい変化を示しながら拡大する巨大市場に、日系企業にとっては、どのように対処することが有効なのであろうか。まず言えることは、この急激に変化しながら拡大する市場を抜きに、グローバルプレイヤーとして存立を維持することは、困難であるということであろう。ガラパゴス大島の日本市場中心に自企業の存立可能性あるいは成長可能性を追求できるのは、中小企業に限定される。
また、グローバルプレイヤーになるために不可欠な中国市場だが、その中国市場は、常に激しく動いている市場である。これは、2つの記事からもよくわかることであろう。ホンダと提携したSenseTimeは、同社の日本法人センスタイムジャパンのURLで沿革を見たかぎり、創業者である香港中文大学の湯教授が2001年にラボを立ち上げたということであるが、香港での同社の創業自体は2014年とのことである。2011年まで中国での現地調査に従事していた私は、アリペイのアリの字も知らずに中国で買い物ができた。しかし、今やアリペイ等を持たずに、中国で日常生活は送れないと、中国人の友人から聞いている。
いわば、ドッグイヤーといった感じで、大きく変わってきているのが中国市場である。しかも、その主役は、常に大きく変化している。新規市場の簇生、成長市場の頻繁な交代、主役企業の交替、これが日常的なのが中国市場である。その背景の1つとして、中国系企業が得意なのは、中国を中心とした市場での新市場の発見開拓であり、自社で開発した特定の先進技術に基づく市場開拓ではない、ということが言えるであろう。技術独占ではなく、市場発見と先行開拓、これこそが新規創業企業はもちろん既存企業をも含めて、中国企業が最も得意とするところである。それゆえ、技術独占による市場支配が生じにくく、常に参入が多く、大小多数の企業による競争が激しい新市場が多いということになる。
他方で、中国市場の主役は大きく変化しているが、産業用装置や設備といった資本財の多くについては、先進工業国系の既存設備機械メーカーが供給しているというのも、中国である。先進的な新製品を開発し新市場を開拓している企業にとって、その製品の生産に必要な設備機械の主要部分は、多くの場合、既存の先進工業国系の機械メーカーの製品である。そのような製品を使ってこそ、安定的に新製品を量産することができることになる。近年の日本のロボットメーカーの製品の中国向け輸出の急増も、このような状況を反映するものといえよう。私がかつて聞き取りをした富士機械製造の表面実装装置(SMT)もこのような設備機械の1つであろう。基板への電子部品の実装には欠かせず、中国立地の工場を始め、世界中の電子機器組立工場のSMTのほとんどは、パナソニック、ドイツのジーメンスと同社の3社によって占められている。当然、中国でEMSが大規模工場を建設すれば、上記3社のいずれかのSMTが大量に設置されることになる。
それゆえ、日系企業にとって選択肢は、中国市場でアップルになるか、クアルコムになるか、あるいはファナックになるか、といったものとなろう。アップルになる道とは、スマホでのアップル社のように、高級機種での優位を確立し、新興中国系企業とある意味棲み分けしながら巨大市場の大きな一部を自らのものとする道である。また、クアルコムのように中国系メーカーが開発する量産製品のプラットファームを提供するというのが、クアルコムやメディアテック、かつてのインテルの道といえよう。それに対して、上記のSMTやファナックのロボット等は、設備投資向けの資本財であり、中国での電子機械生産が一挙に増加する際に、その生産のために調達されることになる。量産機械生産の中国(立地)メーカーの設備投資の群生を自らの市場の拡大へとつなげる、多くの日系設備機械メーカーにとって可能な道である。
本小論の最初に取り上げた日経記事との関連で、以上の諸点の含意を述べれば、プラットフォームの提供により中国市場への進出を目指すのであれば、その規格における競争相手は、半導体でいえばクアルコムのようなグローバルに存在するプラットフォーム提供可能企業であり、中国政府や中国系大企業を中心とするものではない。少なくともこれまでは、そうである。さらにセンスタイムの例を見れば、しばらくはこのような状況が続くと見るべきであろう。
また、中国で新生する数多くの最終製品市場についてであれば、高級品として差別化可能性が存在するのであれば、進出する意味はあるが、そうでなければ、直接完成品市場で中国系企業と競争することは、外資系企業にとっては、初めから難しく、規格間競争の問題にはならないことになる。
日系企業にとって、一番中国市場に参入しやすいのは、最先端の産業機械分野であろう。先端の電子機器等の開発が一斉に進行している中国国内で、中国系企業を中心に見れば、最も欠けているのが、先進的な設備機械の開発生産能力である。しかも、中国系企業も含め、中国立地工場が中国国内市場さらにはグローバルな競争市場で優位を確保するために、最も必要とされ、中国系企業がほとんど供給出来ない分野である。日系企業にとっては、ステッパーでの主役の交代に見られたように、他の先進工業国企業とは真正面から規格間競争も含め、競争する状況にあるが、中国系企業とは規格間競争以前の状況にある。
日経記事で取り上げられたEV用の蓄電池の開発は、この3形態のどれにあたると見るべきであろうか。応用製品であり、電子機器のプラットフォームではなく、産業用機械設備でもない。量産汎用部品ということができよう。規格間競争で問われるのは、最終的には蓄電池としての費用対効果であろう。中国のEVメーカーにとって政府推奨の規格部品であっても、費用対効果で大きく劣る規格の部品としての採用は、主流にはならないであろう。乗用車産業を含め、多様な主体の参入が多数可能な中国市場では、中国市場に適合した規格こそ優位になるのであり、政府が推奨するかどうかは、あまり意味をなさないと、私は考える。
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