‘China’s profitless investment boom'
by Joe Leahy, Wenjie Ding and William Langley,
FT BIG READ. CHINESE ECONOMY, 29 July 2025, p13
を読んで 渡辺幸男
ブログに「米国との経済的対立と、中国・ロシア産業経済の方向性」を掲載した日の午後に配達されたFTに、この記事が掲載されていた。「中国の利潤無き投資ブーム」とも訳すべき、大変興味深いとともに、ブログで展開した私の中国産業経済理解の妥当性を問うとも思える内容の記事である。
記事の内容は、中国で消費拡大が一方で叫ばれながら、依然として設備投資主導の景気刺激策が展開されている、という内容につながる議論である。まずは、地方政府、それも省レベルのような大きな地方政府ではなく、下級の地方政府が依然として積極的に工業団地を建設し、工業企業の誘致活動をしているが、その多くには十分な企業が集まっていない。たとえ土地が売れたとしても空き地のままであるか、よくて倉庫建設にとどまり、工場の建設そして稼働には至っていない。これらの点について、事例を通しての紹介がされている。
また、雑貨類の生産工場では、過当競争状況に陥り、利幅が極めて薄くなっている状況も紹介されている。さらに、機械工業関連でも過剰生産能力が目立っているとしている。航空機部品製造やロボット製造のような分野でも、過剰生産傾向は強く、海外への進出を考えざるを得ないとの言及もなされ、工業生産全般における過剰投資と、低利潤状況が紹介されている。
しかも、地方政府等の支援を受けた工場建設等による過剰設備状況は、中央政府の抑制策にもかかわらず、いろいろな形で継続され、状況の改善は見られないとしている。そして、本記事の締めくくりは、地方政府の官僚の言として、「我々は全面的に中央政府の政策を支持しているので、もう鉄鋼業や炭鉱業のような産業については支援していない」という、皮肉な表現で締め括られている。
この記事が言いたいことは、中国経済が投資依存の経済である傾向は、簡単には変わらない、ということであろう。その動きの中心的部分は、下級地方政府の利害が地元への工場建設の実現にかかっている中国の政治状況である、ということでもあろう。それゆえ、本記事の見出しは、「地方政府はハイテク設備を生産する新工場の投資を誘導しているが、実際には、経済成長刺激とは程遠く、過剰生産能力の積み重ね、一層の薄利へとつながっている」としている。
中国経済での過剰投資傾向、特に先端産業に絡む分野に向けての投資の過剰は、地方政府の利害に絡んでいるがゆえに、中央政府の投資抑制そして消費需要拡大への動きに地方政府が対応し、大きく減少することは困難であろう、ということであろう。過剰投資傾向の今後の継続、投資分野を変えながらの過剰投資の継続が、地方政府の利害ゆえに見込まれることを指摘する記事といえよう。
同時にこの記事から受け取れることは、産業向けの設備投資を促進するとしても、下級地方政府は、いつも同じような産業を支援するのではなく、その時代時代で注目されている新産業企業の誘致をする方向で、誘致対象を変えてきている、ということであろう。しかし、注目される新分野への投資が、地方政府間の競争を通して、過剰投資として実現され、当初より参入企業の利益は薄くなりがちである、ということでもあろう。
同時に、参入を意図する企業にとって、中国の地方政府間の誘致競争は、大変強力な助人となってきたし、今もそうであることを、この記事は示している。新産業分野での激しい参入と、その後の新規参入企業間の「過当競争」が生じ、急激な新産業分野での新規参入企業間の優劣の顕在化、そして勝者と敗者の明確化、急成長企業と脱落企業の共存が繰り返されることとなる。
同時にこの過程こそ、中国での新産業形成と、そこでの無数とも言え得る企業の参入とチャンピオン企業の形成の過程でもあり、それが依然として存在し続けている、ということを示すものとも言える。そのためのキーパーソン的な存在が下級地方政府であるといえ、それが依然健在であることを示す記事と言えよう。
このFTの記事を我田引水的に議論そして理解すれば、このようになろう。私のここでの理解が現実的な議論と言え得るのかどうかは、今後の中国産業経済を見守ることで明らかになるであろう。
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