2018年6月26日火曜日

6月26日 中国市場の意味、朝日新聞「波聞風問」を読んで

原真人「貿易戦争 巨大消費市場 米国のたそがれ」
(「波聞風問」、朝日新聞2018626日、13版、p.7) を読んで

 上記の朝日新聞の編集委員の記事は、大変興味深いとともに、その結論部分は、一回り遅れているのではと感じた。「「トランプの米国」が貿易戦争の火ぶたを切った」で始まる記事で、「「最も魅力的な巨大市場」が中国になれば、世界秩序は大きく変わる」とし、「米国が貿易戦争を仕掛けるのは、その来たるべき日におびえ、あがく姿のように見えなくもない」とし、「米国のたそがれ時を早めてしまうことになるだろう」と締めくくっている。
 興味深かったのは、これまでの米国の影響力の大きさが、その市場としての大きさにあったことを確認していることである。同時に、その米国の大きさの優位が、中国に対しまだ存在しているという点に、一回りの遅れを感じた。トランプ政権は、輸入乗用車について、高額な関税を課そうとしているが、米国市場という巨大市場に大きく依存している日欧の企業が存在することは事実である。しかし、同時に、今や世界最大の乗用車市場は中国である。年間販売台数で1千万台規模の差が米中市場間で生じている。しかも、米国市場は成熟しきっているとほぼ言える市場だが、中国の市場は成熟から程遠い市場であり、需要のあり方としても供給企業の寡占体制形成という視点からも、成長過程にある。
欧州系メーカーにとって、そして日系メーカーにとっても、さらには米系メーカーにとってさえ、自らの世界市場での優劣を決めるのは、中国市場での今後の勝敗であろう。年間3千万台に近づきつつある中国自動車市場、これはすでに米国と日本の市場を合わせたものよりも巨大であり、かつ変化が激しく、そこでの覇者はまだ確定していない。特にEV化の政策的促進により、その市場での覇権の行方は、さらに混沌としてきている。1700万台の規模がほぼマキシマムで、市場として成熟している米国自動車産業、米中のどちらの市場を中心に、自社の乗用車販売の今後の発展をかけるか、少なくともグローバルプレイヤーとしての乗用車メーカーにとっては、この点は明白である。中国市場以外ない。
 ということは、世界の乗用車産業主要企業にとっては、すでに中国が「最も魅力的な巨大市場」なのであり、それは大きさのみではなく、未成熟ゆえの魅力でもある。中国市場で覇権を握ることで、これからグローバル市場の覇者になれる可能性が、世界の巨大メーカーに与えられている。既に、このようにいうことができる。さらにいえば、乗用車産業は単品での産業規模としては、他に類例のない巨大な産業である。そのような市場での覇権を決めるのは米国市場ではなく、中国市場であり、既に移行は済んでいる。
 このように見てくると、朝日新聞のこの記事は、やはり1周遅れの認識下で議論していると言わざるを得ない。朝日新聞の論説委員の方自身が、米国市場の過去の大きさ、文句なしの世界最大市場であった時代の幻影を引きずっているのであろう。

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