2017年5月12日金曜日

5月12日 商工金融巻頭言

 久しぶりに商工総合研究所の雑誌『商工金融』2017年5月号に巻頭言を書きました。タイトルは、「日中の産業発展研究を通して考えたこと」です。
 内容は、日中それぞれの工業発展を考えるには、それぞれ経済が置かれた独自の市場環境や企業主体、また本格的工業化が進展するに不可欠な、経営資源の蓄積状況、さらには、それぞれの国民経済が置かれたグローバルな歴史的経済環境、これらを見て、それぞれについて考える必要がある、という主張です。何百年もの当該国の伝統に戻ったり、経済理論を当てはめるだけだったりでは、何も理解できないという主張でもあります。
 このような考え方をベースに、その具体的な展開の1例として、昨年『現代中国産業発展の研究』を慶應義塾大学出版会から出版したのですが、その書評を、東京大学准教授の伊藤亜聖氏が書いてくれました。『中国経済経営研究』第1巻第1号(2017年3月)に掲載されました。そこでも、基本的に市場と主体の独自性をもとに、日中の本格工業化を考える、私の議論を紹介してもらい、その点については肯定的は評価をしてもらいました。
 その上で、2010年代の日中、特に中国の工業発展をどのように見るか、私が展開した枠組みで把握することができるか、問いかけられました。私からいえば、当然のことながら、中国の工業が置かれた状況が大きく変わってきているのであり、それは伊藤氏も述べているように単に先進工業にキャッチアップする、あるいは、したということではないのですが、同時に、2000年代までの発展展開様式を維持することにもならないということが言えると思います。
 私からいえば、本格的工業化に際し中国の企業が置かれた独自な市場環境、これまでは中国新興企業群だけが参加可能な巨大な中国独自市場の形成拡大があり、それを前提に中国企業中心の競争を通して本格的工業化を実現できた、と言えます。ということは、本格的工業化が実現し、中国なりの既存市場を充足し始めることになれば、中国の本格的工業化の担い手の新興企業群が置かれた市場環境等は、大きく変わることになります。その新たな市場環境を前提に、これまで形成された企業群の競争が行われ、新たな展開が見られることになる、と言えます。ということは、従来通りにはいかないことだけは確かであると言えるし、また、日本の企業が高度成長後に経験したと同じ経験をすることにもならないということになります。しかし、既存の経済理論からの演繹では、全く何も見えない、ということだけは確実です。
 若い研究者の方々には、是非、日本や中国の企業群が置かれた多様な意味での環境をきちんと踏まえて、それぞれの企業、特に中小企業の可能性を議論してもらえたらとも感じています。

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