下の写真は、本日の孔雀サボテン、
奥に見えるのは、紅色のゼラニウム。
籠に入れ、軒先に吊るして楽しんでいます。
これは次から次へと花穂がつき、
長く楽しめます。
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日経記事「ロシア車最大手、生産再開」
(2022年6月9日、夕刊、3版、3ページ)を読んで
渡辺幸男
日経の6月9日付の夕刊に掲載された、執筆記者の名前が入っていない「タス通信が伝えた」という記事に目が止まった。それによると、ロシアの自動車最大手アフトワズが乗用車「ラーダ」について、4月下旬から生産が止まっていたものを、ここへきて生産を再開するということである。「今回の生産再開は、輸入部品の不足を回避するため、可能な限り現地化を進め実現したという」(アンダーラインやゴチ化は渡辺による、以下同様)ことである。また、アフトワズの株式の68%を、仏ルノーが、今後6年間の買い戻しの権利を持つ形で、ロシアの政府系科学機関に売却するとのことも紹介されている。
まずは、この記事からロシアブランドである「ラーダ」は、フランスのルノーの現地子会社となった企業が生産していたこと、輸入部品に依存して生産されていたこと、これらのことが示唆される。同時に、この記事によれば、「可能な限り」であるが、「現地化」を進めることで、生産再開に漕ぎ着けた、ということになる。なお「ウィキペディア」によれば、2017年にアフトワズはロシア国内で約31万台を生産したとのことである。
生産再開でどのくらいの生産規模を実現する見込みなのか、全く書かれていないが、10万台オーダーくらいなのであろうか。ルノー日産系の子会社化していた企業の生産車で、部品の多くを輸入に依存していた乗用車の生産を、それなりの規模でもって、かつ国内で生産される部品を利用することで、生産の再開が可能だということなのであろうか。そうであれば、私がこれまでロシア工業について推測していたこと、「非工業化」の進展という認識は、ほぼ間違っていたことになろう。その意味でも大変興味深い記事である。
私自身は、ロシアの工業状況を、いくつかの資料や著作を通して観察し、「非工業化」が進展し、工業、特に広義の機械工業について、その基盤産業を喪失しているのではないか、という推測を行ってきた。旧ソ連時代にはそれなりに存在していた基盤産業が、ここ30年で消滅し、ほぼ輸入代替となった、というのが、私が「非工業化」という時の含意の1つである。上記の記事の意味するところが、必要に応じ、輸入部品を国内生産の部品に切り替え、例えば10万台規模で乗用車を生産可能であるということであれば、未だ機械工業の基盤産業が、それなりに層として存在している、ということになる。本当にそうなのであろうか。まずは、ラーダそのものは旧ソ連時代から続くブランドで、ネットで検索する限り、見た目での大きなモデルチェンジは行われていないようである。しかし、一方で、ウクライナ侵略に伴う経済制裁で部品不足が生じた、ということは、見た目は別として、ルノー傘下の企業になったこととどのように関連するか分からないが、車のコンセプトには大きな変化がないが、中身は輸入部品中心になっていたということであろう。それを「可能な限り(調達を)現地化」、すなわち、素直に読めば部材生産をロシア国内生産品に切り替えると読める。何年も前に輸入部品に切り替わったものを、数ヶ月で国内生産部品に切り替えることができる、ということであれば、これはこれでロシアの機械工業の基盤産業は健在ということを意味しよう。本当なことなのであろうか。
私の理解する「非工業化」状況が、現在のロシア工業の状況なのであれば、ここでの再開は、国内の補修用等でストックされていた既成の部品を掻き集め、あるいは解体された中古の車の部品の良いところだけ取り出し、それらを集めて補修再生し、「新車」を組み立てる、ということではないのか。ラーダの中古車はそれなりの数で存在するはずであるから、このような補修用部品と中古車からの回収再生部品を、一定量集めることは、短(中)期的には可能であろう。あるいは、ラーダと共通部品が存在すると考えられるルノー等の部品等については、本来の組み付け用部品として生産している部品メーカー等から直接調達するのではなく、半導体のようにアジア等のグレイマーケットから、イミテーションパーツも含め、調達し輸入するといったことも考えられる。これならば、かなりの期間にわたって調達可能であろう。「可能な限り現地化を進め実現した」としているが、どの程度まで現地生産化を実現でき、足りない部分をどう補ったのか、全く不明である。
また、上記の前者か後者かで、私の理解するロシア工業の「非工業化」が妥当な理解なのかどうかが決まるといえよう。
あるいは、ある意味、その中間で、一応国内生産の部材を中心にラーダが組み立てられるが、その製品の良品率は、顕著に低下する、ということであれば、多少なりとも基盤産業は残っているが、量産機械の生産を安定的に行うだけの精度を実現できる水準ではないということになる。
ウクライナ侵略の際に数多く飛ばしているロシア製のミサイルについて、全てが額面通りまともに飛行するのではなく、3個に1個はそれなりに飛行することもなく、さらに、まともに目標に到達するのは、残りの2個のうちの1つに過ぎない、といった話が伝わってきている。ロシアの中では最も工業生産能力が残っているはずの兵器で、この水準である。乗用車を純国産部品に戻した場合、ないしはグレイマーケットからの調達部品をそれに組み込んだ場合、いわば旧ソ連時代の「ラーダ」に近いものに戻すということになるが、その良品率はどのような水準になるのであろうか。部材のかなりの部分を国内で新規生産できるとしたら、その結果として、ロシア国内で生産された部材の品質水準を知ることができるので、生産された「ラーダ」のある意味での「出来」が大変興味深いことになる。
もし、そうであれば、かつての旧ソ連時並みの基盤産業は、規模はかなり縮小しているとしても、まだそれなりに存在しているということになろう。「ラーダ」の生産再開の際の部材の調達状況と、そこから作られる乗用車の水準が、実際のところどうなのか、実態をこの目で見てみたいものである。元産業論研究者としての血が騒ぐ。
2000年代初頭に、偶然なのであるが、中国産業の実態調査に参加でき、中国語文献も読めるようにと慶應外語の生徒となり、ダイナミックに発展する中国産業の実態を、自分の目で確かめ、自分なりの中国産業発展についての考えを、調査を共にした中国産業研究の先達の方々に学びながら、展開できた。
同じようなことをロシアについてできないものか・・・。年齢、環境、共に無理と言っているのは承知だが。
工業発展で交錯する旧ソ連(ロシア)と中国、そして日本と韓国・台湾、既存の理論の当て嵌めで評価するのではなく、実態を見て、その論理化を通して対比する。このような実態調査研究が欲しい。
付論 ネットで漫然とアフトワズの車の生産再開についての記事を眺めていたら、生産が再開される車の装備は、完全に電子化以前の状態に戻り、近年、通常の乗用車に装備された電子機器類は、ロシアにとって輸入困難のため、それらの装備がない、旧ソ連時代の乗用車装備のものが生産再開されるとされるとあった。電子機器関連の装備が、ロシア国内で調達困難なことは、よく理解できる。が、このことの含意は、旧ソ連時代の乗用車部品については、それなりの精度と量でもって、ロシア国内で生産できる、ということになる。本当だろうか。
旧ソ連が解体し、ロシア国内で生産される乗用車も、ルノーに買収されたアフトワズを含め、外資系が生産主体となり、しかもWTO加盟で部品の現地調達率の規制も顕著に低下した状況下で、どれほど、ロシア国内にまとまった量の部品を生産できる企業が立地しているのであろうか。私には大変疑問に思える点である。さらに言えば、部品の金属加工を行う工作機械は、ほとんど輸入品となっていることはジェトロの調査報告書が示しているところである。一時は、輸入済みの工作機械を使用し、それなりの機械加工中心の部品の生産は可能であったとしても、制裁が長引けば、工作機械の劣化が生じ、乗用車部品としての精度を保てなくなる可能性が大である。生産を担う企業、熟練労働者、工作機械、いずれも、使用されなくとも時間が経てば、陳腐化し、腐ってしまう。長期にわたって冷凍保存できるような代物ではなく、生きている、使っていて、さらには必要に応じて新人が入り、更新してこそ維持できるものである。これが30年間、どこに存在していたのであろうか。補修用?
Gross, Anna & Max Seddon,
‘Sanctions trigger Russian technological crisis’ ( FT, 3 June 2022, p.3)を読んで
渡辺幸男
この記事の副題は「ウクライナ侵略ゆえにかされた半導体チップやハードウェアに対する輸出規制は、経済的な圧力を強めている」である。
この記事で興味深いことの1つは、データセンターサービスの拡張を求めているSberbankといったロシアの大銀行が、ロシアの地場の半導体メーカーの能力について評価を下している内容である。いくつか半導体の開発を行うロシアの地場の企業は存在しており、名前が上がっているが、それらはこれまで、製造そのものは台湾やヨーロッパのファウンドリに依存していた、ということである。ここへきて、ロシアの地場の企業が所有する工場に切り替え、「ロシア固有の技術でworthy processors」を作り出したとしているが、Sberbankは、これらのロシアの半導体開発企業の開発したチップは「catastrophically」にテストに失敗し、インテルのチップに遠く及ばないとしている。
またこの点との関連で、本記事に掲載された図が大変興味深い。それは「ロシアのチップの輸入のほとんどはアジアから」という図である。2020年のロシアの輸入金額で中国が5億ドル近くと、他を圧しているのはまだチップの大量消費地であり、そこを経由地として使っていることは理解可能である。が、2位がマレーシアで2億5千万ドル強、半導体生産国である韓国や日本が数千万ドルから8千万ドルくらい、また、フィリピン、タイ、シンガポールも数千万ドルから6千万ドルくらいであるが、「それ以外のアジア」がグラフの中で3番目の多さで2億ドル余となっている。また、ベラルーシが米国と並び6千万ドルぐらいである。いずれにしても、ロシアがこれまでも、主要な半導体生産企業が立地する国から直接輸入しているというよりも、多様な流通ルートを通し、グレイマーケットから調達していることを、この図は反映しているのであろう。
少なくとも、チップを開発設計し、販売している国の企業から直接購入しているのではないことは、確かなようである。
以上のように図でも示されているように、ロシアの当局等は、アジアやアフリカのブローカー経由でグレイマーケットからの調達をおこなってきている、とされているが、それもここへきて枯渇してきているとのことである。そこで、ロシア当局は、中国のファウンドリでの生産へと移行することを模索しているが、北京当局が救済の手を差し伸べていると思われるような証拠はほとんどない、としている。
また、ロシア国内企業がサーバーをロシア国内企業のものへ切り替えているが、国内企業のクラウドサーバーそのものに必要な先進的なチップが手に入らないと、クラウド運営企業がロシア当局に訴えているとのことである。
このような記事内容から見えてくることは、半導体製造について、開発を行なっている企業は何社かあるが、中国系のファウンドリのレベルでみても最新の半導体をまともに生産可能なロシア系企業は存在せず、ましてや、当然のことだがTSMCやインテルに対抗できるような生産技術水準の企業は存在しない、ということである。さらに、これまでロシア系企業が半導体を調達していたグレイマーケットも枯渇し始めており、ますます調達困難となっている、ということでもある。
こうして見てくると、この点からも、ロシアはかつて旧ソ連時代に作り上げていた勢力圏内完結型の工業生産体制を完全に失ったといえる。しかも単に勢力圏内完結型や勢力圏内フルセット型では無くなっただけではなく、先進的技術の担い手も失い、中国を含めた国外企業への依存抜きにはクラウドも維持できなくなってきている、ということが言えそうである。さらに単にいくつかロシア内で調達できないものがあるという意味で海外依存になっている、ということではなく、先進技術総体を海外企業群に依存せざるを得ない状況、よくて工業中進国だといえる水準へと移行していると思わざるを得ない状況となっている。
旧ソ連時代は、国際競争力はないが、ソ連圏内完結型の工業生産体制を構築し、圏内生産体制を前提に先進的兵器・航空宇宙産業を構築していた。それが、ロシア化した30年間の中で、大きく後退したといえる。少なくとも、この記事を通して見えるのは、現代の産業の米と言われる半導体等について、先進的な開発・生産能力に大きく欠ける水準にある、ということである。それゆえ、クラウドコンピューティング等についても、ほぼ全面的に海外企業による部材供給に依存しなければならないということになる。すなわち、クラウドコンピューティング自体を行うことができる国内企業は存在しているが、自国内で部材調達を行うことでは、それらのシステムを構築できなくなっている、ということである。
ここでも、ロシアというそれなりに巨大な国民経済内に立地することが必要な機能、この場合は、多分にロシア政府の意向ゆえにということであるが、これは国内立地し得たとしても、それらの企業が機能を発揮するために必要な部材のうち、先進的な工業製品については、国内生産による国内調達をすることはできない、ということになる。近代工業の水準を規定してきた工作機械について、ほぼ全面的に海外依存という状況になったということを、このブログでも先に紹介した。ロシアの場合、それだけではなく、半導体といった新たな先端部品、兵器を含めた多くの工業製品の機能を根本的に規定するような部材についても、国内生産ができない状況にあること、しかも、ロシア国内企業群が、直接的に開発生産するメーカーから調達することが困難であること、これらが、この記事により、かなり明確に示されたことになる。
先端工業製品に対する市場はそれなりにありそうだが、ただ、その大きさは本記事によれば、「ロシアの半導体消費量は、世界の半導体の1%以下」ということであり、この市場が失われることは、中国立地の企業を含め、世界の半導体メーカーにとっては大きな損失とはならないといえる。他方で、ロシアにとっては、先端半導体が自由に手に入らないことは、兵器を含めた先端的工業製品やそれを生産する資本財の生産にとって、大きな痛手となることを意味する。
天然資源が豊富ゆえに進行しているロシアの「非工業化」、その1側面が、ここでも出現している。天然資源輸出で、手っ取り早く国民生活水準を回復させたプーチン政権の、それなりの成功の成果の1つが、最重要先端工業部門の開拓実現の欠落として結実した、といえそうである。