2021年3月30日火曜日

3月30日 Intel Inside からFab by TSMCへ

Intel Inside からFab by TSMC

FT BIG READ, MANUFACTURING

 FT, 25 March 2021, p.15を読んで

 

  325日版のFTFT BIG READは、台湾のファウンドリ、TSMCを中心とした半導体生産での1社優位へ向けての話である。半導体生産で垂直統合企業ながら生産技術でも、これまで世界最先端の存在であったインテル、かつてはほとんどのPCに ‘Intel Inside’ と書かせ、そして「インテル入ってる」と宣伝し、部品サプライヤでも完成品メーカーに対して取引上優位に立てることを、我々日本の中小企業研究者に知らしめた、そのインテルが、生産技術でTSMCそしてサムスン電子にも置いていかれる状況にあることは、このブログでも紹介した。

この記事は、そのような状況下でのTSMCの巨大な投資の状況と、その世界戦略、受注だけではなく工場立地戦略についても言及している記事である。

そこでかかれていること1つは、インテルがCPUのいくつかをTSMCに外注し、2023年にはインテルのCPU20%をTSMCに外注することになり、そのためだけにTSMC100億ドルを投資するということが記されている。それはインテルが7nmの半導体の生産に自信を持ち始めているにもかかわらず、TSMCを利用するCPUでの競合ファブレスメーカーAMDとの競争で劣後しないためでもある。また、TSMCはインテル向けを含め、2021年には250億から280億ドルの設備投資、2020年比で63%増が見込まれている。

 

また、この記事によれば、TSMCがこれだけの巨大な投資を行うことで、EUV露光装置で圧倒的な存在であるオランダのASMLをして供給不足の状況にいたらしめているということである。それゆえ、TSMCの潜在的競争相手が、必要なEUVASMLから手に入れることは困難となっている。その結果、この記事の落ちは、「インテルがこの困難により長い時間をかけ取り組めば取り組むほど、TSMCとの差は広がる」というのが、半導体製造装置メーカー幹部の言であり、「TSMCの覇権は、ここしばらく揺るぎない」という言葉をまとめとして引用している。

 

半導体のファブレスメーカーが先端半導体開発の各分野で先頭を占めれば占めるほど、先端的かつ大規模なファウンドリに依存する必要が増すことは、当然の結果といえよう。線幅を微細化することで半導体ファブレスメーカーは、ファブレスメーカー間の競争において、より競争優位に立てるのであるから。最先端の生産技術を持つファウンドリが1社ないし2社になれば、先端的な半導体を開発するファブレスメーカーからの発注は、それらの1・2社に集中することになる。それがサムスン電子とTSMCであったのだが、ここにきてTSMC1社になりつつあるということであろう。

 

ファブレスメーカーが多く生まれ、ファブレスメーカー間の競争が激しくなる。ただ、半導体は多様であり、それぞれの分野で優位に立つファブレスメーカーを生み出している。DRAMを中心とした半導体メモリーが半導体生産技術を先導していた時代とは、この点が大きく異なる。多様な半導体について、激しい競争が生じている。他方で生産技術の高度化は、多様な先端的半導体生産を行うことを先端的生産技術受託企業に可能とする形で展開している。その高度化を半導体受託生産企業群の中では、生産技術での先頭にいるTSMCとサムスン電子が主導してきた。そして、ついにはTSMC一社優位になりつつある。その意味を考えることが重要であろう。

受託生産企業であろうとも、受託生産を行う生産技術で、発注側どころか、他の受託生産企業を圧倒する優位を実現し、その優位が発注側企業間の競争で発注側企業にとって決定的な優位をもたらす、あるいは劣位に陥らないで済む要素となれば、発注側メーカーに対し、そして半導体設備供給側装置メーカーに対しても、取引関係上で優越した地位に位置することができる、ということを、改めて我々に示しているのが、このFTの記事である。この点こそ、TSMCの受託生産企業としての生産技術での差別化成功が、我々のような産業経済論の研究者に示唆する第一の点であろう。

日本の下請分業構造で多く見られたOEM企業、相手側設計に基づく受託生産サービス企業、その多くは中小企業であり、取引上、発注側企業に対し劣位な関係にあった。その理由は、OEM企業間の競争が発注企業間の競争より激しいこと、それと同時に、生産技術的に発注側企業に対し優位性を持ち得なかったこと、この2つが極めて重要な要因である。この生産技術的に発注側企業に対し優位に立ち得なかったことを、大きく克服したのがTSMCであり、発注側企業が真似できない水準、それも競争上決定的な半導体の線幅の生産技術で、それを実現したこと、このことの重要性を端的に示しているのが、垂直統合企業であるインテルが改めてTSMCに製造を外注することで、ファブレスAMDとの競争での劣位を克服しようとしたことといえよう。

発注側が実現できないどころか、他の生産受託サービス企業も実現できない線幅の生産技術をものにしたTSMCは、委託企業にとって、さらにはインテルのような垂直統合企業にとっても、自社の先端的半導体生産の優位を維持するためには、不可欠な生産委託先ということができる。我々が、かつて日本の機械工業でのOEM企業すなわち生産受託サービス企業を観察することによっては全く想像できなかったような、強い取引上の立場をTSMCは実現しているのである。

 

 このような状況の出現を踏まえた時、取引上の力関係は、単純に、最終製品や完成部品の企画開発を行う企業が優位で、そこから生産委託を受けるような受託加工サービス企業が劣位、といった、生産上の垂直的な位置関係から決まるものではないことが明らかになる。経済学の基本の基である、売り手と買い手、それぞれにおける競争状況こそが、どちらの側を取引状優位にするかを決めるのである、ということが確認される。

 買い手独占故に、自社内生産も同様な水準以上で可能な故に、激しい売り手間の競争に曝されている売り手は、取引上不利な立場に置かれる。これが売り手独占、あるいは売り手の中で他が追随できない、独自かつ買い手にとって競争上必要不可欠な技術を持つ売り手であれば、逆に売り手が取引上優位な立場に立つ。かつての日本における外注取引関係からは想像できなかった経済学的事実が、インテルとTSMCの事例によって改めて確認されたとも言える。

かつてCPUというPCの完成部品、中核部品だが1部品でもある部品の生産者インテルが、完成品であるPCのメーカーに対して持った取引上の優位、これ自体、当時の日本の機械産業での外注取引関係研究者であった私にとっては、驚き以外の何物でもなかった。が、そのインテルが、今度は、自ら開発し依然として競争力の高い完成部品CPU、優位のもとであった完成部品の生産を、自社内で、自社の従来水準よりは高度な形で生産できるにもかかわらず、外注せざるを得なくなった。それも当該外注先企業TSMCを既に利用している競争相手のファブレスメーカーAMDに対抗するため、という競争に強制されてである。

かつての外注関係の用語を使えば、完成部品メーカーが自社開発し、自社でもそれなりに先端的な製品として生産できるにもかかわらず、OEM外注をせざるを得ない。それも自社の主力完成部品市場での競争力を維持するために。取引関係上でみて劣位な立場で、OEM発注せざるを得ない、というのが、垂直統合企業であるインテルが、ファウンドリTSMCと垂直的社会的分業をせざるを得ないことのより広い概念での表現といえよう。

 

 このような状況は、半導体だけに生じることなのであろうか。半導体以外の機械製品や機械完成部品にも生じることなのであろうか。これが次の問題となる。

 

 このような状況を、単品でみて世界最大の市場である乗用車市場で再現しようとしているのが、ファブレスメーカーとしてのアップルとEMSの鴻海精密工業ということなのであろうか。ただ、EV市場には、「インテル」や「マイクロソフト」は、(まだ)存在しない。EVの「インテル」は、蓄電池に出現するのか、それともモーター、あるいは自動運転技術、何が決定的な完成部品で、その部品を特定企業(群)だけが圧倒的な優位を占め、供給を独占できるのか、その可能性と論理は、(少なくとも私には)全く見えていない。個別完成部品が優位を占め、その生産でファブレス化が進み、乗用車生産それ自体はPC生産のようになる。こちらの可能性は、充分に考えられるが。

まずは、EV乗用車で「インテル」が生まれるのか、生まれるとしたらどの部品か。そしてEVでの「TSMC」は? 産業論研究者には興味が尽きないテーマではある。 

2021年3月29日月曜日

3月29日 君子蘭の季節

君子蘭が、今年も、本格的に咲き始めました。
今日の朝、
廊下の君子蘭を上から撮りました。


夕方になり、エントランスに出した君子蘭が、
庭園灯の下、
賑やかに咲いているのを撮りました。
置いてあった場所により、咲き始めの時期が異なるので、
これから、しばらく入れ替えながら、
我が家のエントランスは、
君子蘭で彩られます。

鉢が大きく、極めて重くなっているので、
いくつかについては、今年は、廊下で咲かせ、
そのまま鑑賞するつもりです。

テラスにも、まだ蕾の君子蘭がいくつかあるので、
順番に廊下やエントランスに出す予定でいます。
素焼きの大きな鉢は無理ですが、
腰を痛めない範囲で、できるだけ。

 

2021年3月20日土曜日

3月20日 植田浩史・三嶋恒平編著『中国の日系企業』を読んで考えたこと

植田浩史・三嶋恒平編著『中国の日系企業 蘇州と国際産業集積』

慶應義塾出版会、2021年 を読んで  渡辺幸男

 

本書の目次

序章 問題意識と課題                     植田浩史

 

第Ⅰ部 国際産業集積の形成                  伊藤亜聖

第1章         国際産業集積 “蘇州” の形成と変貌           植田浩史

第2章         中国の日本企業と製造業現地法人            植田浩史

第3章         蘇州への日本企業の展開                植田浩史

 

第Ⅱ部 自動車部品産業

第4章         蘇州の日系企業からみる中国自動車部品産業の発展    三嶋恒平

第5章         日系自動車部品2次サプライヤの中国進出生産管理活動  的場竜一

 

第Ⅲ部 中小企業と基盤的技術

第6章         中小企業と蘇州                    植田浩史

第7章         蘇州地域における蚊型の取引構造と重層的供給構造    田口直樹

−品質とコストの相克−

第8章         中国ローカル市場に切り込む日系中小企業        田中幹大

 

終章                             三嶋恒平

 

はじめに

 本書は、目次で示したように、植田浩史慶大教授を中心とした6人による共著である。基礎的な資料での蘇州産業集積についての概観的紹介を踏まえたうえで、蘇州に進出した様々な日系機械工業関連企業を、乗用車一次部品サプライヤからなる大企業群と、基盤産業を中心とした中小企業とに大きく分け、蘇州進出から現在までの個別企業の環境変化の中での対応状況を、事例を通して丁寧に紹介する、事例調査を軸とした調査研究である。

 中国に進出した日系企業についての研究ということで、私が2000年から行なってきた中国現地工業中小企業群の調査研究とは、方法的には極めて近く、同じ中国の工業のダイナミズムの内容を事例調査から解明しようとするものであるが、対象が異なり、いわば相互補完的な関係にある、と言える著作である。

 本書を、共編著者の植田・三嶋両氏の連名で出版早々送っていただき、そのタイトルと内容、さらにはこれまで個人的に伺ってきた話から、すぐさま、読み始めた。最近、かつてのような勢いで本を読むことができなくなっているので、大変興味深い本ではあるが、私としては時間がかかり、ようやく今週初め(315日ごろ)に読み終わった。その読書の途中から、感想文のメモを書き始め、それを最終的に書き終えたのが週半ばである。それを、まずは植田浩史氏に送った。受領し目を通した旨の返事をいただき、その内容は、感想文に対しての拒絶的反応を示すものではなかったこと、公刊された著作であり、関心のある方はどなたでも本書を手にすることが可能であることから、私のブログにも掲載し、私の感想文についても関心のある方に幅広く目を通していただき、こちらにもコメントをいただけたらと考えた次第である。

 

1、本書の結論部分を読む前に感じたこと

以下は、本書の「終章」を読む前に、第Ⅲ部までを読んで感じたこと、私なりに考えたことを書いてみたものである。

 本書は、植田浩史慶大教授グループによる中国江蘇省蘇州市の日系企業を中心とした、15年間にわたる現地調査の成果である。「アジア的規模で展開する日本の製造業・企業の現段階における特徴を論じることを課題」(同書、1ページ)とすると書かれている。本格的な長期にわたる定点観測的実態調査に基づく、日系製造業企業の中国蘇州市進出を核とした地域産業集積論である。

 本書の特徴は、何よりも、蘇州市の産業集積の形成と現状を概観した第I部、蘇州市に進出した日系自動車部品企業群の展開の特徴を1次サプライヤの現地工場を中心に描いた第Ⅱ部、そして自動車産業関連を含みながらも、多様な機械金属工業関連の日系中小企業の存立展開を描いた第Ⅲ部と、終章から構成されていることにある、と私には思えた。概論の第Ⅰ部と終章を別とすると、企業聞き取り調査という膨大な実態調査を積み重ねてきた対象それ自体を分析した際の対象は、大きく2つに分かれている。まさに2つに分けて見る必要のあるのが、蘇州の日系企業のあり方であるようである。そして、そこから示唆される中国進出日系機械金属工業企業の2つの方向である。

1)第Ⅱ部を読んで

 つまり、第Ⅱ部と第Ⅲ部で、同じように中国蘇州に進出した日系企業でありながら、そのあり方が決定的に異なることが示されている。第Ⅱ部の大半を占める乗用車部品の日系1次サプライヤ企業群、そのほとんどは大企業であるようだが、それらは、日本国内での乗用車完成車メーカーとの関係を、現在まで引きずり、欧米企業系現地企業を供給先として開拓することはできても、現地地場系企業からの受注を一方の受注の柱とすることは、ほとんど不可能な状況であることが、明確に示されている。しかも、これらの一次部品サプライヤの多くは、日本国内では特定完成車メーカーに系列化された企業ではなく、独立系のサプライヤということである。さらに、蘇州とその周辺地域には、地場企業と欧米企業の完成車工場はあるが、日系企業のそれはほとんど存在しないにもかかわらず、そういう結果となっている。

 第Ⅱ部の事例研究で解明されている姿として、自動車部品1次サプライヤにとっての元来の市場であった日系完成車メーカーとの関係を変えること、あるいは変えてまで現地地場完成車メーカーとの取引関係を強化することは、経営的に意味がないということが描かれている。日本国内で系列取引関係に象徴されるような、開発段階からの密な関係を完成車メーカーと取り結び、そのことを活かして日系部品メーカー間の相互の激しい競争を生き抜いてきた1次サプライヤ企業群(多くは、系列部品メーカーではなく、独立系の1次部品サプライヤにもかかわらず)は、中国でも日系完成車メーカーが大きな市場シェアを持ち、日本国内とならぶような市場を提供する状況にあれば、その関係の中で自らの発展可能性を追求することが最も容易であるし、これまでの受注開拓行動ないしは文化を大きく変えることなく、経営を発展させることができる、ということを意味している。

 発展への慣れ親しんだ形態を大きく変えてまで、またそのために現地工場に本格的な製品開発機能を持たせてまで、異なる企業文化を持った現地地場完成車メーカーからの受注を開拓する必要性を感じないし、意欲を持たない、ということが明らかにされている。1次サプライヤ企業にとっての現地工場・法人について日系完成車メーカーのための現地部品生産工場としての位置付けは、大きくは変わらないし、変える必要性がないし、変えるための努力は無駄ということであろう。特に、コラム(同書、375ページ)で書かれていたように、一定期間の駐在員として現地工場の管理を担当する日本人の管理者にとって、あえてそのような経営的冒険に乗り出す必要性は、日系完成車メーカーの現地の成長市場でのシェアが維持される限り、限りなく小さいと言えよう。

 逆に言えば、中国で成長する市場の1つとしての地場企業への供給を考えるには、現地工場に生産機能とその改善能力と共に、必要に応じて製品開発の機能をも持たせる必要がある。しかし、日系1次自動車部品メーカーは、日本の本社中心の製品開発体制を維持しながら日系企業や欧米企業の完成車メーカーの市場が中国現地でも保証される限り、中国現地地場企業市場を開拓するために生産・製品技術開発を現地化する意欲を削がれてしまう、ということが、これらの事例で明らかにされている。

 

2)第Ⅲ部を読んで

 他方で、第Ⅲ部で描かれている蘇州に進出した日系中小企業群は、異なる様相を呈している。何よりも、その多くは特定の機械加工サービスや金型あるいは一品生産型を含む産業機械の製造といった分野の企業であり、第Ⅱ部の中心を占める量産の際たるものである乗用車部品メーカーの現地工場とは異なっている。日本で発注側と共同開発した量産部品を、中国現地で受注生産するのではなく、生産技術的にあるいは製品技術的にも、一品生産ごとに、あるいは受注ロットごとに相手型のニーズに対応する努力を求められるような業務を担当するような中小企業群も含まれる。これらの企業の扱う製品や生産は、製品・生産技術を開発することと、日常的に生産することとを時間的、地理的に乖離させることが可能な量産型の部品製造とは異なり、同時並行的ないしは連続的に一体として開発と生産を行うことが求められている。

 これらの企業の場合、今、生き残っている中国に立地する日系企業の場合の多くが、現地地場企業からの受注開拓にも成功している企業ということになる。しかも、それらの企業の多くは、元々日本で行っていたような形態での生産技術開発や製品開発のあり方とは、形態を変えながら、現地企業の状況やニーズに応えながら、存立展望を切り開いている。あるいは、変えることができたから、中国蘇州で、現在でも存立展望を持ち得ていると言えるのかもしれない。

 

2、終章を読んでの感想

 以上を書いた後に、三嶋氏が書いた終章を読んだ。私の本書の内容についての理解に関して、多くの部分が終章で言及されていた。ある部分までは、ほぼ本書の結論と私の理解とは、一致するものと言える。

 ただ、勝手に私が本書からの含意を読み込んでしまった点があった。それは、中国における市場環境での、乗用車部品一次サプライヤと、他の機械類を含めた製品・部品向けの機械加工サービスや金型生産に専門化した中小企業との間での、大きな差異の存在のよって来たる理由についてである。中国の乗用車市場は、この調査期間、ほぼ順調にかつ急激に拡大し、世界最大の市場へと変化していた。しかも、その中で日系乗用車メーカーは安定的に大きなシェアを確保していたことと、それらの日系完成車メーカーに完成部品を供給する一次部品サプライヤとの関係が、完成車メーカーにとって、極めて市場競争上重要であったこと、これらにより、中国最終市場の発展、日系完成車メーカーの現地生産の拡大、そして一次日系部品メーカーの現地部品生産拡大が、並列的に進展したことの持つ意味でもある。

 それに対して乗用車の二次サプライヤ層を含め、種々の機械生産に対応した機械加工サービスや金型、専用機といった、二次サプライヤや周辺機器サプライヤにとっては、事態は同様な形で進展していないこと、このことの持つ意味でもある。機械工業だけ見ても、多様な業種で中国現地生産を開始した日系中小企業が多数存在する。それらの企業にとって、ここ四半世紀の中国市場の変化は、乗用車生産での一次部品サプライヤにとっての中国市場とは大きく異なっていたと言える。本書でも、コピー機等の事務機器や電気・電子機器へのサプライヤとして中国の工場進出した機械加工サービスに専門化した中小企業が、数多く紹介されている。しかもそれらの中小企業にとっての市場、進出当初想定していた日本向けの生産、そしてその後発注元の中国進出に従った中国日系企業向けの生産のいずれもが、この間に極めて大きな変動を被っている。

 乗用車生産のように、現地日系企業向けの市場が安定的に拡大するような状況にはなかった。その中で、今存在し、元気に展開している上記のような進出中小企業は、それらの激動を克服してきた企業ということになる。多くの中国進出日系中小企業が撤退していく中、現地の環境変化を克服し、活路を見出し、今元気に企業活動を現地で継続している企業ということになる。

 環境変化に揉まれ、それにうまく対応できた中小企業が、近年も蘇州で調査者の訪問に回答した、ということが言えるのではないか。本書の中でも、序章で「経営環境が大きく変化する時期であった。中小企業ならではの問題に加え、新たに多くの課題を抱えた日系中小企業の中には撤退を決断する企業も見られたが、今回我々が調査した中小企業の大半は、環境変化に対応しながら事業を継続させている」(同書、33ページ)と述べ、撤退した中小企業が存在することも示唆している。同時に、あえて中国に現地工場を展開させることをしたような、あるいはできたような日系中小企業の多くは、積極的かどうかは別として、激しい環境変化に遭遇しながらも、経営主体を変更するような事態も含め、業務内容の変更はもちろんのこと、事業形態を大きく変化させながら、それを克服する努力をし、今に至っているということも、上記の一文は含意していると見ることができよう。また、紹介されている事例群にも、そのことは大きく反映され、所有者が現地化されながら、日系企業としての歴史を活かし、現在も事業としては再生産されているような企業も紹介されている。

 

3、終章を踏まえて、どう考えるべきか

このような認識を前提に、自動車一次部品サプライヤと、基盤産業すなわち機械加工サービス専門化企業や金型生産中小企業との、現地受託先開拓状況の蘇州の事例での大きな差異を、どのように見るべきか、もう少し整理し、検討して見る。

両者の環境変化に対する対応を分けたことについての1つの考え方は、完成部品メーカーと基盤産業企業の差異の結果と見るような考え方である。すなわち、すり合わせ型部品の一次完成部品サプライヤと、基盤産業企業との、専門化した分野の違いに注目する見方である。

日系の完成部品メーカーは、独立系と言えども、日系乗用車メーカーとの共同開発の形で、日本の開発担当部署同士で、独自一次部品を開発している。その開発した部品を利用することも、日系完成車メーカーのグローバル市場での競争力の強さの一因となっている。また日系一次部品サプライヤにとっては、この共同開発への参画が、日系以外の一次部品メーカーとの日系完成車向け市場を巡っての競争優位の大きな要因となっている。それゆえ、日系完成車向け市場が順調に拡大している限り、従来の日系完成車メーカーとの間に構築した共同開発の体制を、大きく変更しながら、新たな受注先を開拓する必要性は低いことになる。その開発体制は、グローバル市場向けの乗用車のために、日本国内で共同して部品を開発するというものであるから、特定市場、たとえ世界最大の中国市場であろうと、そこでも日系企業向けの市場も安定的に拡大している限り、中国で現地市場向けに開発体制を組む必要性を持ち得ないことになる。

それに対して、基盤産業中小企業は、元来多様な多数の受注取引先と取引を行なってきているし、あるいはその可能性を前提に存立している。また、日本国内での存立においても、受注先業種の盛衰や個別受注先企業の成長動向で、最終製品的には大きく製品内容を変えるような状況を経験してきている。時間軸をも考慮すれば、多様な製品向けに特定加工サービスや特定部材を供給しているのが、多くの基盤産業企業の特徴なのである。その多くは日本国内では乗用車生産や多様な機械生産での二次サプライヤであったり、場合によっては機械製品の一次サプライヤであったり、状況に応じて階層的分業構造上での位置は変わるが、その専門化内容は機械加工サービスや製品組み立てあるいは多製品の共通部材の生産といったことについては変化がない。

このような元来日本市場において存在していた両者の業種・業態的性格の大きな差異が、進出先中国での行動変化状況の差異に結びついたと見る、という見方である。

今一つの見方は、現地市場の動向あるいは現地企業との既存受注先をめぐる競争の違いが、両者の差異をもたらしたという考え方である。すなわち、日系乗用車部品一次サプライヤ企業にとっての受注先、日系乗用車メーカーの中国市場での生産の順調な拡大と、日系乗用車部品一次サプライヤとの一体的な部品開発のあり方とが、日系乗用車部品一次サプライヤ企業の現地工場での生産体制の維持拡大につながった、と一方で見る見方である。それに対して、乗用車部品の二次サプライヤ層を含め、基盤産業に属するような企業群の場合、一方で地場サプライヤ層との競争にさらされ、また、多くの企業で当初想定した日本国内向けや中国での現地既存受注先向けの生産が、量的に大きく減少し、質的にも大きく変化し、従来の形態での現地工場の再生産が不可能になった場合が多い、という環境変化面での両者の大きな差異である。

 

すなわち、日系乗用車一次部品サプライヤと日系乗用車メーカーとの独自な関係、それは日系乗用車メーカーにとって中国市場を含めたグローバル市場での優位性確保の一因でもあるが、それゆえに両者の関係を双方ともに変え難く、かつ日系乗用車メーカーの中国市場での順調な発展とが相まって、中国市場での労賃騰貴等の大きな生産条件変化にもかかわらず、日系乗用車部品一次サプライヤは既存の取引関係に安住して成長可能であったが故に、例外的に既存の取引関係を軸に、数十年にわたり変化の激しい中国市場で、経営の拡大再生産を可能とされたと言える。

他方で、基盤産業に属すような中小企業群については、当初の市場そのものがそもそも消滅するとか、地場企業との直接的な競争に晒されるとか、といった理由で、現地生産を維持するためだけにも、大きく業務内容を変える必要性に迫られ、それゆえに、大きく取引状況を変化させ、現地事業の業務内容を変化させざるを得なかった。同時に、それらの基盤産業企業は、元来、受注先の大きな変化に対する対応を達成しやすいような業務形態である、ということも言える。それゆえに、調査結果に現れたような状況が、乗用車一次部品サプライヤと異なり発生した、という理解である。

 そもそもの業務内容が異なることと、置かれた外的市場環境の変化も量的かつ質的にも異なること、両者が組み合わさって、蘇州の日系機械工業サプライヤの2極化が生じたと見るのが、より現実的であろう。 

2021年3月12日金曜日

3月12日 池の鯉に春が来ました

 我が家の庭の池の鯉、春が来ました。
一昨日くらいから、
盛んに泳ぎ回るようになってきました。

餌として、冷凍庫に入れていたパンの残りを解凍し、
ちぎって、池にまいたところ、
きれいに食べました。

春です。池の春です。
これから、池の掃除をきちんとしないと、
水が濁ったり、
酸素不足になったり、
楽しい、忙しい庭仕事の季節がやってきました。

目障りなのが、青鷺よけのネット、
それを張るための棒、
鯉達を、比較的小さめの鯉達ですが、
守るためには不可欠、
これでも、不十分なことが、昨秋、目撃されました。
我が家の鯉が、やられたのを見たのです。
もう少し、密にネットを張る予定です。


2021年3月6日土曜日

3月6日 雨上がりの春のエントランス

 昨夜の雨があがり、春の朝がやってきました。
しっとりと濡れ、
我が家のエントランスの春の花が、
本格的に咲き始めています。

門の前の西洋桜草、
賑やかに咲いています。
クリスマスローズも花盛り。

お隣との境の低い塀に飾ったクリスマスローズ
今年いちばんの花盛り、
茶色鉢の数が親株、
そのためがこぼれたのを、何年かかけ育て、
10鉢以上、今年は花をつけました。

エントランスの玄関に向かって左側、
母屋に沿っては、ノースポールとゼラニウム、
花を本格的につけじめ、
ノースポールは、今一息でピークとなると思います。

これからの1週間、最低気温が氷点下の日はなさそうです。
いよいよ、春の花の季節、
クリスマスローズの蕾が萎れたり、
ゼラニウムの葉が赤くなったり、といった寒さゆえの異変、
もう大丈夫そうです。
これからは、毎週末、液肥をやり、一層賑やかな春を、
と努めるつもりです。
道行く人に楽しんでもらい、私も楽しむべく。