2017年7月23日日曜日

7月23日24日 サンパラソル、紫紺野牡丹、サルビア


サンパラソルが盛りを迎えています。
今年は昨年より、さらに賑やかに咲いているように思えます。
緑の葉に朱色の花、鮮やかです。

紫紺野牡丹の花も、ぽちぽち咲き始めています。
この株は一昨年挿し木した苗が育ったもので、
かなり立派な株になりました。
蕾がたくさんついており、水やりをきちんとすれば、
たくさんの花を楽しめそうです。

24日になり、ノボタンの花が多数開きました。
ざっと数えて10個以上の花が開いています。
かなり、賑やかになりました。
一日花ですが、今日からは毎日楽しめそうです。


今、エントランスで賑やかになってきたのは、
サルビアです。
春先から育てた苗が大きくなり、
多くが花芽をつけています。

インパチェンスが、サルビアとともに咲き誇り始めています。
マーガレットは咲き終わり、
ゼラニウムの花もひと段落、
画面下の金蓮花の花は、遅れてきた一輪です。

2017年7月11日火曜日

7月11日 小論 FT記事からEMSの意味を考える

 小論 Financial Times記事*でのインドスマホ市場の動向紹介と、
           その動向が持つグローバルな社会的分業への示唆
    *‘Landmark tax reform poses threat to Indian smartphone industry
                            (FT, 4 July 2017, p.13)
渡辺幸男

目次
はじめに
Financial Timesの記事の要旨>
<補足:日本経済新聞(75日)の記事>
 *早川麗・伊原健作、2017、「中台勢 インド生産拡大」での関連部分
<‘Landmark tax reform poses threat to Indian smartphone industry
                       を読んで考えたこと>
 *2つの記事の中で、私が特に注目したこと
 *私にとって、2つの記事から見えてきたことと、その含意
<現代のEMS企業とかつての日本のOEM企業との差異は何か?>
<大小様々なEMS企業群の形成が意味すること>
<補足:EMS企業の存在とともに重要な製造装置メーカーの自立的存在>
<現代の機械工業社会的分業構造をどう見るべきか>
参考文献

はじめに
 私の最近の関心の1つは、現代の電子機械工業を中心とした機械工業の社会的分業を、どのように把握すべきかにある。かつて、日本の機械工業の社会的分業構造図を、山脈型社会的分業構造図として表現した(渡辺幸男、1997)。しかし、そこで念頭に置かれた社会的分業は、1980年代初めまでの日本の状況、日本国内完結型の生産体制のもとでの社会的分業であった。現代でも、乗用車産業を中核に置くと、それに近い社会的分業を想定することは、ある程度可能であろう。ただし、多様な機械産業との関わりが、その枠からはみ出ることになる。
 しかしながら、乗用車産業、そして一品生産的な産業機械産業企業群の生産体制を事実上の例外として、他の機械工業は、極めて広域的な、さらにはグローバルな社会的分業の中で拡大再生産されている。その社会的分業構造を、どのように把握したら良いのか。いくつかの議論が存在していることも、多少は理解している。例えば、グローバル・バリュー・チェーンといった議論がそれである。
 しかしながら、具体的な社会的分業を考えていく中で、川上から川下に向けての社会的分業、垂直的社会的分業では単純に把握できないような社会的分業が、極めてグローバルな形で形成されていることに気がついた。それは、一部組立工程が、低賃金労働力の豊富な地域に国境を越えて転出し、単に機械を開発し生産する個別企業内で地域間分業が生じるだけではなく、開発と組立について地域間分業を含む社会的分業として広範囲に形成されてきたことである。半導体受託生産企業や電子機器製造受託サービス企業、すなわちファンドリーやEMSといった受託生産サービス専業の巨大企業と、企画開発と販売だけを行うファブレスメーカーとの広域的な社会的分業の形成がその代表的事例である。しかも、後ほど見るように、これらの受託生産サービス企業は、かつての日本に存在したOEM受託企業のような取引上相対的に劣位にあり、技術的に遅れ気味の企業とは異なり、自立的に発展し、独自な生産技術を開発する能力のある大企業を含む企業群となってきている。
 このような近年のグローバルレベルでの社会的分業とその変化を、どのように考えるべきか、そのヒントが74日付のFinancial Timesの記事にあった。そこで、この記事を紹介するとともに、その記事を利用しながら、私が上記の社会的分業の意味に関連して、感じていることを以下で述べたい。

Mundy, Simon2017、‘Landmark tax reform poses threat to Indian smartphone industry


 Financial Timesの記事の要旨>
 Intexをはじめとするインドの電子機器メーカーは、中国から輸入した部材を組立てる形で、インドブランドのスマホを販売し、国内市場で高いシェアを実現していたが、中国メーカーがインド国内での組立に乗り出したために、シェアを失いつつある。さらに、政府のスマホにおける「インド国内での製造」を育成する政策、71日からの税制改革によってインドブランドは大打撃を受けるかもしれないとされる。
 インドは中国に続く世界第2位のスマホユーザーがいるが、これが国内電子機器産業へと、まだ繋がっていない。製造業部門の比率の低さ、中国の半分の水準であることを変えることをインド政府は目指し、スマホに注目した。インドの電子機械産業は、輸入が370億ドルであるのに対し、輸出は82億ドルにとどまっている。ただ、事態は前進している。インドメーカーの国内組立やサムスンやいくつかの急成長する中国系メーカーのインド内組立で、国内組立比率は2014年の30%から2016年初頭の80%へと急増した。これは、多分に「差別的課税」によりもたらされた。これが、国内組立スマホと比べ輸入スマホのコストを押し上げた。ただ、これはこれから大きく変わるかもしれない。これからは、輸入品も国内組立品も一律12%の実効税率となる。10%の関税を輸入スマホに課すという話も出ているが、政府は今の所このような差別的課税システムについて、なんら言及していない。
 たとえ差別的課税をしたところ、スマホ生産でのインド国内での付加価値は製品価格の2~3%以上ではなく、インドブランドの中には単なる「スクリュードライバー技術」に過ぎないものもあるから、あまり意味がない、という見解もある。ただ、政府は、1年半以上、部品の国内生産を促す補完的輸入関税について話している。それはPC板へと拡張されようとしている。その影響もあり、Intexも部品の内製化に取組み始め、今年遅くにはPC板も生産することを予定している。ただし、この政策は、外資系企業もインド国内での生産を深化させるという結果をもたらしている。
 現在、小米のインドで売られるスマホの95%は、Foxconnのインド国内の受託生産工場で生産されている。これが、小米が2016年第4四半期に、インド国内市場でサムスンに次ぐ第2位の販売を可能にした一因でもある。また、上位5社の残りの3社も全て中国系であり、これまで、上位5社に入っていたインド系4社は、すべて5位以内から転落した。Intexの創業者はインドブランドを支援するために中国ブランドのインド内生産スマホに特別課税すべきだとしているが、今の所、政府はその点には関心を寄せていない。投資先としてのインドについての外資の評判のほうを重視しているようである。
 何れにしても、輸入製品により重い課税をすることで、外資がインド国内でより多く製造することを進めさせ、そのことは外資がインド外にもつ巨大な生産単位による優位性を享受することを抑えていると言える。インド産業を育成したいのであれば、政府は、より積極的にインド内生産を促進するようなインセンティブを与えることが必要であるし、そのような方向で一挙には無理ではあるが、国内で完結した生産体制へと向かうことができる、という見解も紹介している。

<補足:日本経済新聞(75日)の記事>
*早川麗・伊原健作、2017、「中台勢 インド生産拡大」
                   での関連部分(「 」内は引用)
「インドで・・・台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業(FTの記事でのFoxconnの親会社・・・筆者)はスマートフォン(スマホ)などの受託生産能力を拡大し、インド国外にも供給する」
「電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、鴻海が17年からインドで最大50億ドルを投じる見通しだと伝えた」
「(鴻海精密工業には・・・筆者)インドでは既に複数の拠点があり、中国の小米(シャオミ)やOPPO(オッポ、広東欧珀移動通信)のスマホを製造しているとされる。米アップルによるスマホの現地生産の受託企業候補にも浮上し、現地の需要に合わせた生産能力の拡大が必要になっていた」
「サムスン電子 北部ウッタルブラデシュ州の工場で携帯電話や冷蔵庫、薄型テレビを生産」

<‘Landmark tax reform poses threat to Indian smartphone industry
                       を読んで考えたこと>
*2つの記事の中で、私が特に注目したこと
 小米のインド市場での急成長と、それを支えるFoxconnによるインド国内受託生産工場の新設、拡張に私は特に注目した。小米は、インド向け製品を開発したが、インドでの生産はFoxconn依存である。これにより、輸入規制をクリアし、シェアを急拡大、サムスンに次ぐ地位を確保可能になったことを、このFT記事は示唆している。また日経の記事によれば、Foxconnのインド工場自体は、小米以外からも受託、他の中国系メーカーの急成長にも貢献している可能性が大である(早川麗・伊原健作、2017)。
 FTの記事に掲載されていた下記の図によれば、中国ブランドのシェア50%強へ、サムスンは267%水準を維持している。また、中国ブランドの急成長は、2015年後半ごろから開始され、16年に一挙に20%から50%へ、14年にサムスンのシェアをインドブランド全体として抜いたインドブランドのシェア縮小が、同時に発生(50%弱から178%へ)している。



 同時に、Financial Times(以下、FTと略す)の記事から読み取れることは、インドブランドは、中国からの輸入部品を使ってシェア拡大を一時的に実現したということである。その後、中国系ブランドがFoxconnへの委託生産を利用しながら、インド内生産を実現し、シェア急拡大し、インドブランドのシェアを急激に低下せしめた。
 これらのことに特に注目した。以下で、注目したことの理由を示していきたい。

*私にとって、2つの記事から見えてきたことと、その含意
 ここで興味深い事実は、まずは、インドのブランドも、中国のブランドも、両者ともにベースバンドICとしてMTKやクアルコムのものを使い、後の多くの部品については中国産を使用し、現在ではインドで組立て、販売しているということである。また、インド国内での最終生産、組立を行うことを政策的に求められ、その結果、中国ブランドが本格的にインド国内での生産に、Foxconnへの委託生産という形で進出したということである。単純に理解すれば、Foxconnは受託生産者であり、中国ブランドのみならず、アップル社のスマートフォンも組立てているように、委託者の国籍は関係ないと言える。
 インドの国内市場向けの生産で、受託生産者としてのFoxconnに依存して、何故中国ブランド、特に小米が急成長できるのであろうか。ここに私が注目する第一の点が存在する。
 繰り返すが、使用している部材はインドブランドも中国ブランドも、ベースバンドICについて中国外のファブレスメーカーの同様なものを使用し、その他は中国を中心とした同様の部材生産者から調達していることになる。垂直統合していないということで、インドと中国のブランドで部材面での差異は、基本的には存在しない。さらに組立においてさえ外部委託、それも台湾のEMSに依存しているのが中国ブランドであり、これまた他のメーカーも委託可能である。
 それにもかかわらず、急激な市場での上位メーカーの交代が生じ、インドブランドがサムスンやアップルと並び上位を占めていたインド市場で、インド市場が急拡大する過程で、一気にサムスン以外は中国ブランド企業、その多くはファブレスメーカーが占めるようになった。上位5社中4社までが中国ブランドということである。
 中国と並ぶ巨大市場となったインドで、何故、ほぼ同じ部材を使用し、かつファブレスメーカーである中国ブランドに、インドブランドは大きく遅れをとることになったのであろうか。
 製品開発と販売努力こそファブレスメーカーの命、中核的競争力であると言える。そうであれば、まさに製品開発とさらにマーケティングでインドブランドと中国ブランドとに大きな差異があったことが推測されることになる。FTの記事の中のインドブランドのいくつかは「スクリュードライバー技術」の企業であるという指摘が示唆的である。既存の輸入キットを組み立てるだけのような企業には、インド市場向けの「開発」は存在しようがない。インドの企業が中国の企業に対し、インド国内市場向けの製品開発で負け、しかも市場シェアで先行したにもかかわらず、一気に中国系企業にシュアを奪われた。このことは、中国国内市場での激しい競争で鍛えられた中国系ファブレスメーカーは、インド市場に進出する際にも、当該市場向けの開発に注力し、マーケティングにも力点を置き、製品面での独自性を出し市場での優位を確保しようとしたことを推測させるのである。
 ただ残念ながら、これらの記事や、私がこれまで見てきたいくつかの報告では、インドブランドのスマホの開発の状況についての具体的な話を見いだすことができていない。そのため、上記の話は、全くの推測にとどまっている。

 今一つ注目すべきことは、現代の中国のファブレスなスマホメーカーとEMSとの関連の持つ意味である。海外進出する際に、中国ファブレスメーカーは、現地市場向けに開発投資を行うことは不可欠であるが、巨大組立工場、規模の経済性を実現できる組立工場に投資する必要性はない、ということになる。組立工場への巨額投資のリスクを回避し、しかも迅速に現地生産に移行できることになる。もちろんそのためには、同時並行的に巨大なEMS企業が現地生産へと進出することが必要条件である。
 他方でEMS企業にとっては、特定企業からの受託生産ではなく、現地市場向けや当該地域から海外輸出の総量の動向こそが重要となる。現地化した大規模な受託生産組立工場がフル操業するかどうかは、サムスンがインドでそうであるような自社内組立企業として、自社製品がどれだけ販売できるかどうかに関わっているのではなく、受託先企業群総体の現地での需要量こそが問題となる。
 Foxconnの場合も、中国系のファブレスメーカーの現地組立化の量とアップルからの委託量の総量の動向が、現地工場への巨額投資の妥当性を決定することになる。最終製品市場での勝者が自社内組立企業でなければ、インドのように巨大市場が存在する場合には、あとは自社がEMS間の競争で優位に立つかどうかなのである。それゆえ、自社製品の組立工場を現地化する場合に比べ、インドのように国内生産保護のもとで巨大市場が形成されつつある場合には、より容易に大規模投資が可能となり、巨大既存EMS企業が保持している電子製品についての生産技術面での優位性が、規模の経済性とともに、極めて発揮しやすくなる。
 さらに言えば、インドブランド企業が生産技術面での優位性を得るためには、少なくとも中国系ブランド企業に対し引けを取らない生産技術を利用するためには、Foxconn等の外資系EMSの生産技術に依存することが必要となろう。同時にそのことは不可能ではない。ただし、インド系ブランド企業がファブレスメーカー化して中国系ブランド企業に伍して市場で生き残るためには、企画開発面での独自性あるいは優位性を実現することが不可欠であろう。FTの記事に出てきた「スクリュードライバー技術」であることから示唆されるような輸入キットをそのまま組立販売するといった存在形態では、生き残る余地は存在しないことになろう。

*まとめ
 このように見てくるならば、中国系ブランドの急成長スマホメーカーの多くを占めるファブレスメーカーの発展、展開を考える際には、いっぽうでMTKやクアルコムに典型的に示されるように中核部材を中心とした部材メーカーとのグローバル・バリュー・チェーン上でのつながりの重要性が、まずは言える。そして深圳等の関連産業を含めた産業集積地域内に立地することも重要である。それらと共に、ファブレスメーカーとしての成長を可能とするEMSの存在とその利用可能性が、重要な要素となることが理解されよう。
 その際にファブレスメーカーにとって重要なのは、EMSは集積内に存在するかどうかではなく、EMSが存在し、それが先の例ではインド国内といったより広域的な地域内で利用可能かどうかである。また、アップル社にとって不可欠なEMSは、シリコンバレーに主力受託生産工場を確保しているわけではない。現時点では、主要な委託先生産工場はもっぱら中国に存在している。中国で組立てて、中国を含めた全世界に向け販売している。一定規模以上の委託量があれば、委託先工場の立地は、委託元企業に近接する必要性は全くないこととなる。これがインドでも実行可能となったことを、今回の記事は示唆していることになる。

<現代のEMS企業とかつての日本のOEM企業との差異は何か?>
(なお、OEM生産(企業)という表現には、完成品受託生産(企業)とは異なる別の意味で使用される場合、すなわち補修用部品に対する完成品組付用部品の生産とそれを行う企業をさす場合がある。ここでは、完成品受託生産(企業)を意味するものとして使用している)
*ここまでEMS企業とファブレスメーカーとの関係を中心に考察を進めてきて、自分自身として、奇妙な感覚にとらわれた。包括的な受託生産企業として、日本の機械工業では「OEM(Original Equipment Manufacturing)企業」と呼ばれる完成品生産受託企業が存在したし、現在も存在していると思われる。これらのOEM企業と現代のEMS企業とを比較した時、その共通性と差異はどこにあるのか、この点をまずは確認し、その上で、その差異の意味を考える。
 両者は、受託側企業が、委託側企業によって与えられた完成品の仕様書や図面に従い、数量と価格を決めて生産を受託し、決められた時期に完成品を納入する、という点では基本的に何ら異なる点はない。字義通り、完成品の生産の委託を受け、委託側の指示に従い生産を行う、注文生産の企業である。逆に言えば、いずれの企業も自社が企画した製品の生産を行うことなく、他社からの注文に従って完成品を生産する受託生産サービス企業ということになる。
 ただし、より両者の存立状況を詳しく見ていくと、大きな差異も存在する。私が現時点から見て両者の間の最も大きな差異であると考えているのは、その技術の水準、および技術開発力である。かつてOEM生産を行なっていた日本の企業の多くは、委託側の企業も同様な生産を自社内でも行なっており、並行的に外部委託を行なっていた場合が多かった。さらにその委託側の自社内の生産技術水準は、日本国内として見るならば、多くの場合に先端的な生産技術水準であったと言える。逆に言えば、受託する側の企業の生産技術水準は、委託側とよくて同等の水準であり、多くは委託する側からの指導を受けるような水準であった。さらに、自立的な生産技術水準の向上という意味では、委託側の自社内での生産における生産技術水準の向上を上回る場合は、ほとんど存在しなかった。
 他方で、現代のEMSの中には、当該企業が受託する完成品についての生産技術では、グローバルに見て最先端の水準を実現し、しかも自立的に先端化を実現している企業が多く存在している。受託生産サービスの専門企業として、当該分野での競争の結果、生き残ったEMS企業は先端的な生産技術を自社内で確保できる企業であると言える。特に委託側企業がファブレスメーカーである場合には、委託する側が受託する側の生産技術面で指導するといった、かつて日本のOEM企業へ発注した委託側企業が行なったような生産技術面での委託側の優位は存在しようがない。ファブレスメーカーとしては、EMS企業の中から最も優れた生産技術を持つ企業を選択し、その企業に生産を委託することこそ重要なのである。
 また、ファブレスメーカーからの委託を中心とするEMS企業の場合、競争相手は、かつてのOEM企業と大きく異なる。技術の項目の際に言及したように、かつての日本のOEM企業は、委託する側に生産技術の優位が存在する場合が多かっただけではなく、委託する側が自社内に同様の完成品組立生産機能を保持していた。すなわち、OEM企業にとって競争相手は、同様な立場にあるOEM企業だけではなく、委託側企業の自社内生産部門も含まれていた。次に見る規模の問題も関わるのであるが、委託する側が技術的に同等かあるいはより優位な内製部門を持っているということは、受託する側のOEM企業にとって、極めて競争上不利な状況に置かれるということになる。
 多くの場合、このような取引上不利な立場にOEM企業が置かれていたことにより、委託企業側と従属的な取引関係を結び、委託企業からの経営への関与をOEM企業が甘受することも、多く見られた。しかし、EMS企業の場合は、技術的に自立的に発展し、競争相手は委託側の自社内生産部門を含まないことが多く、EMS企業同士の競争が中心となる。それゆえ、取引関係上で委託企業に対して不利な立場になるということは、その存立状況からの蓋然性としては、一般的ではないと言える。それゆえ、取引上の有利不利は、あくまでもEMS企業としてEMS企業間での競争で、優位か劣位かによって決まることになる。OEM企業が持っていた委託側企業の社内生産との競争という側面がなくなることで、取引上不利に陥りやすい状況が解消されているのが、現代のEMS企業なのである。
 また、現代のEMS企業はグローバルな市場での受託生産者の場合も多いので、その規模は大小さまざまであり、グローバル市場レベルでのEMS企業間競争で優位に立てば、グローバル市場の巨大企業となりうることになる。他方で、かつての日本国内のOEM企業は、日本市場の大きさに制約され、そして少数特定委託企業へ依存する場合が多く、その多くは中小企業であった。技術的な発展の自立性が低く、規模が相対的に小さなことからも、委託側企業との取引上で、さらに不利な立場におかれることとなった。
 また、両者は、企業発展方向性としても、大きく異なっている。かつての日本のOEM企業のほとんどは、OEM企業として特定完成品の生産技術を習得することをステップに、自社開発を実現し、自社で製品開発を行うODM企業となり、さらには自社ブランドを確立し販売市場に直接進出し、OBM企業となることを発展の方向性としていた。このような発想は、日本のOEM企業だけではなく、グローバル大のEMS大企業を多く生み出している台湾の企業の場合も、パソコンのエイサーに見られ、あるいは自転車のジャイアンツに見られるように、同様に受託生産企業から自社ブランドメーカーへの道を発展方向性として認識し、志向していた。
 ただ、実際に生じた発展方向としては、台湾でも上記のOBM企業化だけではなく、FTで紹介されたFoxconnすなわち鴻海精密工業の辿った道も存在していたことになる。自立したEMS企業自体としての巨大企業化であり、EMS企業としての優位性確立を軸とした多角的、垂直的事業展開という発展方向である。
 また、丁・潘(2013)によれば、深圳で山寨携帯電話が大量に生産された際、その基板生産の開発設計企業と基板組立企業、また携帯電話開発設計企業と組立企業は別個に存在し、それぞれ社会的分業を行なっていたとされている。その際の受託組立生産サービス企業としてのSMT企業や完成品組立企業は、外資系エレクトロニクス産業企業が深圳に進出した際に形成され、それが新たに形成された携帯電話関係の企業によっても活用されたとしている。この時期における組立受注サービス企業群は、技術水準と規模から見れば、日本のOEM受託企業と同様に、外資系エレクトロニクスメーカーの生産技術水準を上回るものではなかったし、大企業と言えるような存在ではなかったであろう。
 しかしながら、現代のEMSやファンドリーは、単に受託生産サービスを提供するだけではなく、自立的に生産技術の開発等を実現し、かつ大規模設備投資を実行可能な資本規模を保有している巨大企業を多く含む。その意味では、当初深圳に形成された受託生産サービス企業群の進化形ということもできよう。

<大小様々なEMS企業群の形成が意味すること>
 かつての日本で多く見られたOEM企業ではなく、EMS企業、完成品受託生産企業が、グローバルに数多く存在することは、何を意味するか、これが次の論点である。EMS企業はEMS企業として、激しく競争しており、競争の圧力のもとで自らの生産技術を高度化することに専心することになる。EMS企業群が自立的に発展することになり、自立的に発展すればするほど、EMS企業に委託する企業、特にファブレスメーカーは自らの完成品の企画・開発と販売に専心できることになる。同時に、既存のファブレスメーカーだけではなく、潜在的な企業家にとっても、EMS企業の多様な多数存在は、創業に際し、ものづくり方面についての資本投下をすることなく、完成品の企画と開発および販売への資本投下のみで済むことになり、参入障壁が極めて低くなることを意味する。
 すなわち、一方でのEMS企業群の発展は、グローバルな意味で多様なファブレスメーカーの簇生状況を生み出す可能性を高めることになる。また、うまくEMS企業を活用できるがどうかが、新規参入企業がより容易に目指す製品分野に参入し、市場で一定の地位を確保できるかに差異をもたらすことになろう。
 先に見た、小米のインド市場への参入、急激なシェア拡大を可能した極めて重要な必要条件として、鴻海精密工業のインドへの直接投資、EMS企業としてのインド進出という状況があるといえよう。このような状況が示唆することは、EMS企業群のインド進出は、インドで自社の完成品を販売しようとする外資のみならず、インド系企業にとっても、共有されうる産業基盤の新たな形成ということになろう。電子機械産業を中心とした機械産業の製品開発型完成品メーカー、ファブレスメーカーとしての参入を目指すベンチャー群にとっての基盤産業の形成を意味する。
 このように見てくると、当面、Foxconnのインド進出は、後発の相対的に低所得な国の顧客向けの製品の開発で、一日の長があるインド進出中国主要メーカーに有利に働いているが、これは、そのまま継続するかどうかは不明ということになる。小米が後発スマホメーカーでありながら中国市場で急成長したように、インド市場のニーズを最も的確に把握し、それに向けた製品開発に成功した企業ないしはベンチャーが、国籍を問わず、生産技術の保有の有無に関係なく、次の巨大インド市場での覇者になる可能性が存在しているということを、このような状況は意味している。
 特にEMS企業が生産技術面では先端的な状況を実現しているようになっていることは、自社内に生産部門を保有する完成品メーカーとファブレス企業が、同一の完成品市場で競争する際に、極めて大きな意味を持つことになる。外部委託するファブレスメーカーが、内製しているメーカーに同じ市場で競争上不利にならないどころか、市場への供給速度や生産技術面でも有利になるという可能性の存在を意味している。完成品の企画開発を行なっている完成品メーカーは、自社内で生産するかどうかではなく、どのEMS企業に委託するのが競争上有利かということが問題となる状況が生まれることを意味する。
 このような状況は半導体産業等ではすでに生じており、パソコンのCPUで自社内生産のインテルとAMDの競争であったが、スマホのベースバンドICでは、クアルコムもMTKも半導体受託生産サービス企業の生産技術を前提に、自社の半導体を企画開発し、生産委託し、グローバル市場に供給している。ここでは委託生産が前提で半導体メーカー間の製品開発競争が行われ、受託生産サービス企業はより微細な加工が可能な生産システムの開発を、各種の半導体製造装置メーカーとともに行っており、ファブレスメーカーは、その成果を活用しているのである。

<補足:EMS企業の存在とともに重要な製造装置メーカーの自立的存在>
 自社で企画した完成品の生産を行なっていないEMSが、生産技術で先端技術を追求することが可能となるためには、当然とも言えるが、製造装置を自由に購買し、さらには製造装置メーカーと新たな製造ラインの開発を共同で行うことができることが重要な必要条件となる。かつて、汎用コンピューターの世界に君臨していたIBMは、その当時、後にインテルやマイクロソフトに委託した部分であるCPUOSを自社内で開発し、同時に半導体を自社生産していた。それだけではなく、主要な製造装置について、自社内で開発していたと言われる。製造装置まで含めた垂直的統合企業であり、「メーカー」であった。そこでは、新規参入企業は、製造装置を含め、IBMに対応できる装置を自ら開発するか、あるいはそのような装置の開発を他の産業機械メーカーに委託することが不可欠となる。
 それに比して、現在では、主要な製造装置メーカーは、外販を主としている産業機械メーカーであり、自社専用に製造装置を開発している事例は、ほとんど存在しない。私がかつて聞き取りを行ったことのあるPC板組立の主要製造装置であるSMTSurface Mounting Technology、表面実装機)の場合も、グローバル市場で見て業界2位メーカーの富士機械製造はほぼSMTの専業メーカーであり、業界トップのパナソニックも自社内で使用するとしても、そのための生産というよりも外販向け生産が中心であり、その結果として業界トップの地位を築いている。

<現代の機械工業社会的分業構造をどう見るべきか>
 中国経済経営学会の春季大会が愛知大学で71日に開催された。そこで日置史郎氏が丁可氏との共同論文を報告した。そこでのテーマはグローバル・バリュー・チェーンと産業集積の、深圳のスマホ関連企業にとってのそれぞれの意味を、アンケート調査を基にした計量分析で解明することであった。そこでの調査対象となったのは、設計と中核的部品と組立てたPC板を供給する独立デザインハウスとそれらをまとめ製品にするインテグレーターに加え、両者を内部に統合した垂直統合企業である。具体的な中国スマホ産業のバリュー・チェーンを示した図が、同論文の図1(日置・丁、201ページ)である。そこには、ベースバンドICの供給者としてプラットフォーム・ベンダーから流れが始まり、上記の2社へとつながる図が描かれている。
 
   出所、日置・丁、2017201ページ

 その下部に、商社や部品供給企業とインテグレーターとの間に「Contract factories」と表記されている。しかしながら、本文でその存在の説明はない。これが、実際にPC板の組立を行いスマホの組立を行っている大小のEMSに相当すると、私には理解される。社会的分業の中で、この「Contract factories」が存在するかどうかによって、そもそも数多くの深圳等に存立する中国のファブレスメーカーとしてのデザインハウスや垂直統合企業と言われる企業が存立可能となっているし、急拡大も可能となっている、と私には思われる。
 単なる部品供給企業ではなく、またPC板設計(組立)と完成品設計(組立)といった、製品生産での川上から川下に向けての流れではなく、受託組立生産者が存在すること、これが重要な意味を持つ。
 なお、図1の元となった丁可・潘九堂論文(丁・潘、2013)は、スマホではなくガラ携の山寨携帯電話についての議論であり、ベースバンドICMTKが中心である。そこでは、PC板組立受注企業がSMT工場として掲載され、深圳に「1000社程度立地している」(丁・潘、2013年、111ページ)としている。部品の供給をめぐる集積の意味とは異なる、関連サービス業の集積の意味が示唆されている。金型や組立のサポーティング・インダストリーについては、同書の112ページの注8)によれば、山寨携帯電話産業形成以前の外資系エレクトロニクス企業の進出を契機として形成されたとされている。
 外資系エレクトロニクス産業の多数立地を契機に、産業集積内にこれらの組立受託生産サービス企業群が多数形成されたことが、次のファブレスの山寨携帯メーカーの簇生を可能とした。ここまではいわば日本でのOEM企業の簇生と共通しているのかもしれない。しかし、同時に、台湾系の受託生産企業に見られるように、そのような企業群の中から自立的に発展する企業が生み出された可能性がある。この点、私としての大いに知りたいところでもある。
 何れにしても、北京(や東莞)生まれのスマホのファブレスメーカーである小米(やOPPO)は、EMS最大手の台湾系企業の鴻海精密工業を活用することで、インド市場で急成長を実現し、小米は自社生産企業であるサムスンに次ぐシェア第2位のメーカーとなっている。現代の社会的分業としてのEMSの存在の大きさ、製品開発型の完成品企業にとっての重要性を示すものと言える。この意味で、EMS等の受託生産サービス企業群を、自立的な(生産)技術開発力と大規模工場への巨大投資能力を持つ存在として、社会的分業構造の中に位置付け、現代の基盤産業の中核として評価する必要があろう。同時に、このような受託生産サービス企業群による産業基盤の形成は、製品開発と新市場開拓に専心する広域にわたるファブレスメーカーの簇生の基盤ともなり、よりダイナミックな発展展開を関連産業にもたらすことになる。これらが、FTの記事を読み、私なりに考えたことの主要な点であると言える。


参考文献
Mundy, Simon2017 ‘Landmark tax reform poses threat to Indian smartphone industry (Financial Times, 4 July, 13ページ)
丁可・潘九堂、2013 「「山寨」携帯電話:プラットフォームと中小企業発展のダイナミズム」(渡邉真理子編著『中国の産業はどのように発展してきたか』勁草書房の第4章)
早川麗・伊原健作、2017 「中台勢 インド生産拡大」(日本経済新聞、75日、11ページ)
日置史郎・丁可、2017 ‘Industrial clusters and global value chains as complementary channels of knowledge and information: A case study of China’ mobile phone-set industry’ (『中国経済経営学会2017年度春季研究集会 報告レジュメ等資料』中国経済経営学会、188215ページ)

渡辺幸男、1987 『日本機械工業の社会的分業構造 階層構造・産業集積からの下請制把握』有斐閣

2017年7月5日水曜日

7月5日 サンパラソル、クチナシ、インパチェンス


我が家の廊下で、無事、冬を越したサンパラソルが、
本格的に咲き始めました。
これからかなりの期間、楽しめそうです。
冬を越すのが難しいと、言われていますが、
幸いなことに、我が家のサンパラソルは、今年も冬越しに成功しました。

軒下やテラスで、同じく無事に冬を越したクチナシ、
クチナシの1種だと、葉の形状と香りから判断しているのですが、
2鉢が賑やかに咲き始めました。
エントランスに濃厚な香りが漂っています。
この鉢も、ご近所のクチナシと異なり、
かなりの期間、咲き続けくれると思います。

下の写真は、前年の鉢で春に出芽したのものを採集し、
ポット苗にし、大きくしたインパチェンスです。
5鉢ほどを寄せ植えしたものが、本格的に咲き始めました。
これからもっと賑やかになり、
これもしばらく楽しめそうです。

次は、同じく軒下で冬を越したノボタンが咲き始めそうです。
サンパラソルは、我が家に来て数年ですが、
クチナシは10年余、
インパチェンスの最初の株は、いつ頃、我が家に来たのか、
サルビアと同様に、今やまったく不明です。
数十年、毎年繰り返し、前の年のタネから芽生え、
その子孫の1つが、写真ということになります。
他方、近年、長年花をつけていたラベンダーが、
残念ながら消えてしまいました。
正確にいうと、枯らしてしまいました。
こんなことの繰り返しの中で、我が家に適合したいくつかの花々は、
数を増やし、賑やかな春そして夏を迎えています。