2025年1月22日水曜日

1月22日 正月に想う BRICSとは

 正月に想う  BRICSとは

渡辺幸男

 

 私は、2000年に縁あって中国の中小企業、とくに工業中小企業の発展とそのための政策についての日中共同の調査研究プロジェクトの日本側主査を務めることとなった。それまで日本国内の日系企業からみた海外進出先として中国等を、日本国内からだけ眺めていた日本の中小工業企業に関する研究者であったのが、この時を機会に、中国の現地中小企業の形成そして再生産や発展をそれ自体として観察し、評価することとなった。また、その際、丸川知雄氏や駒形哲哉氏といった中国現地企業に対して直接聴き取り調査をし、中国の工業発展を考察していた(当時の)若手研究者とともに聴き取り調査に従事することができた。主査とは言え、実際には、中国経済については全くの素人であった私は、彼らに事実上導かれながら、ようやく聴き取り調査研究に従事し、主査としての役目をそれなりに果たすことができた。

 そこから、新興工業国、BRICSの一角を、自らの研究対象とできるレベルで知ることになった。中国工業中小企業への聴き取り調査等を通して中国工業の発展の独自性を認識し、中国経済の持つ可能性を見たことで、BRICSと呼ばれるその他の主要な後発工業化国についても関心を持ち始めた。特にロシアとインドそしてブラジルについては、現地調査等を行った著作、数は少ないが、その日本語で書かれたいくつかの著書や論文を読む機会も持つことができた。私のブログ、「渡辺幸男の晴耕雨読日誌」でもいくつか、そのような国についての論考や記事を私なりに紹介し、検討してきた。

 

 そのような私にとって、BRICSの中で最も抜けていたのが南アフリカの現状、特にその工業に関する状況であった。そんな中、FTの新年13日の号で、BRICSの一翼である南アフリカ共和国のインフラ、特に水道インフラの悪化について、ヨハネスブルグの例が紹介されていた(Rose, R. & M. Mark South Africa. Essential services   Johannesburg bears brunt of water crisis, FT, 3 January 2025, p.4)。南アは、近年BRICSの一角として注目されているが、そこで紹介されていたインフラの状況は、実に悲惨なものだった。

インフラ整備が進まないということではなく、水道事業について、既存のインフラの維持更新ができずに、これまでの水準を維持できなくなっている、ということが紹介されていた。その中で興味深かったのは、行政の担当者が、専門性で選ばれることなく、コネで役職についているため、メンテナンスや補修が不適切になるという指摘である。根本的な管理システムの人材育成採用システムが構築されていない、少なくとも人材供給の面では、ということになる。官僚が、本来的な機能的な意味で採用された官僚ではなく、役得に向けての情実人事で採用された官僚ということなのだろうか。

 結果として、ヨハネスブルグの経済は、BRICSの一角を担う南アフリカの中の最大都市にも関わらず、ここ10年間のGDPの伸びで見ても年1%を下回り、実質的に停滞しているということだ。何をか言わんや、である。インフラの整備そしてその維持、適切なメンテナンスは、経済発展のための第1の必要条件である。それがなされていない、という紹介、そして、その結果としての経済の停滞状況は、衝撃的だった。少なくとも南アフリカ経済を具体的に知らない私にとっては。

 

 グローバルサウスの代表格の1つである南アフリカの中の最大都市ヨハネスブルグでのインフラの維持の困難、そしてその悪化、結果、水道がダメになる。こんなことが、今生じている。どう見たら良いのであろうか。アパルトヘイトの体制下で構築されたインフラ、それが生かされず、解体しつつある。このような南アフリカの状況は、この国を発展するグローバルサウスの代表的な国々の1つとして見ることに対して、疑問を呈することとなろう。人種差別の極限を示していた旧体制を乗り越え、そこで構築されたインフラを活かし、維持改良し、より幅広い人々のために使う、というのが民主化した南アフリカのあるべき姿と思われるが。それができずにいるのが、今の南アフリカのようだ。

 

 BRICSという時、そこに含まれる各国と各国経済は、同様の水準や、同様の発展展望を持っている後発工業化国ではない。ブラジルは、南米1位の人口規模のもと、豊富な鉱物資源や農産物を輸出し、経済発展を遂げつつある。ただし、1次産品の輸出国としての発展が中核で、工業発展そのものは、部分的のようである。昨年暮れにロシア上空で撃墜されたと思われる旧ソ連を構成していたアゼルバイジャンのアゼルバイジャン航空の小型ジェット旅客機エンブラエルの製造元、エンブラエル社に見られるように、一部には、国際競争力を持つ自生的工業企業も育っている。が、自動車生産等は外資系企業のブラジル内生産が主導しているようである。

 ロシアは、旧ソ連時代には「先進」工業国であった。国際競争力はないが、20世紀後半において、ジェット旅客機製造企業を含め多くの産業で先進工業分野の企業を国内企業としてもっていた。ソ連解体の後、市場経済化し、そのもとで、多くの(先進工業を含めた)工業分野は国際競争力を持たないことを露呈し、軍需製品生産企業を除いて解体したようである。その代表例が、ジェット旅客機生産産業であり乗用車工業であろう。そして、ソ連解体後、30年余を経過し、その中核的存在であったロシア連邦は、対外バランスから見ると、農産物と石油や天然ガスといった鉱業製品、すなわち一次産品が輸出競争力を持ち、半導体や電子機器等の先端工業製品をほぼ全面的に輸入に依存する非先進工業国となった。

 他方でインドは、未だ先進工業企業としての存在感を世界市場では示していないが、先進工業分野の人材は豊富に育ち、インド内外での活躍が目立っている。この事実をどのように評価すべきか、難しいところである。また、世界一の人口大国だが、その人口規模が巨大な国内市場を形成し、その市場が先進工業発展をめぐる自国内企業の切磋琢磨の場になっているとは、どうも言えそうもない。電子機器等の分野では、中国系企業の進出が際立ち、それをいかに抑え、自国系の企業を育てるかが、当面の課題となっているようである。国内市場の大きさを活かせていないように、側からは見える。その理由は、実際にインドの産業を見ていない私には、よくわからないが。

 それに対して中国であるが、今や、世界の先端をいくはずの米国経済、そしてその国のリーダーから、最大のライバル国とみなされるようになってきた。20世紀末に、日本とその工業が、米国から、その経済覇権を脅かす存在として、ある意味で敵視され、あるいは覇権国家への道を潰す行動を、米国政府によってとられたように、今や、当時の日本経済以上に、米国の経済覇権を脅かす存在として、中国とその工業がみなされている。

また、中国とその経済はグローバルサウスのリーダーとなりつつあり、ウクライナ侵略で目一杯のロシア連邦の後ろ盾として、ロシアからの1次産品輸出を対価に、先進工業製品をロシアに供給する主たる経済ともなってもいる。グローバルサウスの発展と経済力の中核的存在とも言える。ロシアのウクライナ侵略の膠着状態化によって、ますます中国の経済力、工業生産力が、BRICSの中で目立つようになってきた。

 

そして、先の南アフリカである。当初のBRICsSは小文字であり、中国までの4カ国を指していたようだが、南アフリカを加え、大文字のSを使うようになった。本当に南アフリカはグローバルサウスを代表する、発展する国なのであろうか。金等の鉱産物の生産は、相変わらず活発のようであるが、工業国としての発展、そのためのインフラの整備、それどころか維持も問題であるというのが、先に見たFTの記事の内容とも言える。

 

グローバルサウスの代表格、BRICS5カ国について、それぞれの経済の現況は大きく異なり、世界経済の中でその存在感を高めるような、自律的な経済、工業発展の展望を持つかどうか、どうも5カ国の中でも大きな差があるように、私には見える。(元)産業(発展)論研究者として、ますますそれぞれの国の工業の実態について知りたくなった。中国については自分で2000年から10年余にわたり実際に見ることができた。しかし、インドやブラジルの工業については日本語で書かれた調査研究を手に入れ、眺めただけであり、そのような文献さえロシアについては数が少ないと言える。また南アはもっと私には遠い存在である。

5者を比較し、その存在の意味と展望をそれぞれについて考えたいのだが。さらには、かつては豊かさを誇ったアルゼンチン経済が、ミレイ大統領のもとで産業発展をどう遂げられるかも気になる。

 

 そして、インドネシア、タイ、マレーシア等の東南アジア諸国の工業発展、これも、漏れ聞くところでは、大変興味深そうである。

 

 いずれにしても、自分で調査に行き、聴き取り結果等を使って、独自な議論を展開する体力(知的を含め)はなくなっている。しかし、関心はあるので、誰か、実態を見、その結果を日本語で報告してくれないだろうか。それを常々考え、その成果を探し回っている。

これらから多くを知り、学ぶと同時に、それらを比較検討し、日本、そして中国の産業発展を見てきたものとして、それらの国の産業の発展のあり方を眺め、私なりに是非楽しみたいと思う、今日この頃である。

 研究者としての知的体力は顕著に減ったが、工業発展についての関心、それを検討する議論を眺め、自分なりに考えてみたい気持ちは、依然として存在しているようである。

2025年1月1日水曜日

1月1日 乙巳元旦

 乙巳元旦

謹 賀 新 年


明けましておめでとうございます。おかげさまで、今年も、新年を、夫婦ともに、それなりに元気に迎えることができました。感謝、感謝です。

暮れから子供や孫が多数、我が家に帰ってきて、賑やかな正月を迎えています。夫婦二人で過ごしている我が家、普段は広い家で、子供が家族連れで遊びにきて泊まることも多いのですが、それが一家族だけだとあまり普段と変わらないのですが、子供五人とその家族が揃うと、かなりいっぱいになります。

元旦の朝、次から次へと居間に集まり、ゲーム等を始めた孫たち、その数が数名を越すと、きわめて賑やかになり、普段の我が家とは異なった雰囲気となります。正月の楽しみです。正月元旦の我が家恒例の集まりには、これに私の妹夫婦たちも加わり、今年は総勢23名になりました。いつまで続けることができるか。準備の中心を担う妻の元気次第ということでしょう。暮れから正月にかけての準備、その中心にある我が家流のお節料理、ローストビーフ、煮豚、お刺身、それにお煮しめ、その多くを妻が作り準備します。ここ数十年の年中行事ですが、妻の気力と体力はたいしたものです。私は、多少の手伝いレベルでしか参加できません。我が家流の正月の集まりを長年にわたって続けて来られているのも、妻のパワーのおかげです。ここでも、感謝、感謝です。

下の写真は、今年の元旦の集まりの際に妻が用意してくれた料理の中心部分です。これらを、このテーブルに着席した私たちは妹夫婦4名と6名で、楽しみました。孫たちも時々摘みに来ましたが。もちろん、五人の子供たちとその家族には、もう2テーブル用意され、そこにもお節は同様にセットされているのですが。




私の昨年は、2022年度、2023年の3月をもって、中小企業研究奨励賞の審査委員の職も退き、研究者としての仕事から完全に解放(?)されました。読みたい本を年末まで、好きなように読み、2年近くを過ごした気がします。(1日に公開したこのブログでは、1年間違え、「2024年の3月をもって」と書いてしまいました。満75歳になったのを期に辞めたにも関わらずです。お詫びし、訂正します。こまったものです)中小企業研究関連の著作は数冊のみで、地球の歴史、生物の歴史、人間の古代史、これらの研究の入門書の新しいものを、片っ端から読みました。ネットで注文すれば、翌日には多くの本は届きます。1960年代の学生時代、ゼミに入った頃から、工業経済や中小企業を中心とした経済学の分野以外の研究については、興味がありながら、当時一番関心があった中小工業研究に関連する著作の読書以外は、ほぼ禁欲してきました。その反動もあり、いろいろな学術分野の入門書、その21世紀に入っての研究成果を紹介するものを、好みに従い、新聞や雑誌での紹介に従い読んでいます。乱読もいいところです。

その一方で、私が研究対象としてきた産業論関連では、ロシアの旧ソ連以来の工業変化、これを知りたくいろいろ、こちらは専門文献や調査書を探し、うまく日本語のものが見つかると読んで、感想文をブログに書いています。ただ、ロシアの工業の現状についての日本語文献は、たまにしか出版されず、欲求不満に陥っています。

計画経済下での旧ソ連工業としてのロシア工業、それが、市場経済化したことでどのように変化したか、変化しなかったのか、なかなか見えてきません。ロシアと中国との展開の違いを見たくてしょうがないのですが。残念ながら私の視野には、真正面からこの問題を論じている日本語文献は全く入って来ないといった状況です。世界市場での市場競争力はなかったが、先進的ではあった旧ソ連の工業、その現在が見たくてしょうがないのです。

断片的な情報を通して見る限り、現ロシア連邦は一次産品の輸出に専ら依存してそれなりの豊かさを追求する、先進工業育成を放棄した経済にしか見えてきません。国際競争力はなかったが、先進的であった旧ソ連のロシア連邦内に立地していた工業生産力は、どうなったのでしょうか。その担い手であった人々はどこに行って、何をしているのでしょうか。そして、計画経済では何が可能で、市場経済がもたらすものとどこで何が違うのでしょうか。私なりに考えていきたいことが生まれてきているこの頃です。

今年、このような点についても、少しでも理解が深まれば、嬉しいのですが。