2024年12月21日土曜日

12月21日 中国からの世界市場制覇企業の登場をどう見るべきか

 中国からの世界市場制覇企業の登場 をどう見るべきか

大塚靖明「経済➕」「経済安保 揺さぶる中国 下」

(朝日新聞、20241221日、朝刊、13版、6ページ)を読んで


渡辺幸男

 

 中国新興企業の発展を考える上で、興味深い記事を朝日新聞で見つけた。「経済➕」「経済安保 揺さぶる中国 下」「「部品大国」価格も品質も追随許さず」、という見出しの記事である。編集委員の大塚靖明という方の署名入りの記事である。

 そこで書かれていることは、中国ドローン・メーカーのDJIの世界ドローン市場制覇に関する紹介である。DJIをまずは「世界市場で7割のシェア」を占め、「ホビー用から」「高級機種まで」取り揃えていると紹介している。ドローンはカメラやGPSあるいはスマホ等に内蔵される部品を寄せ集め「プロペラで飛ばす」もので、それをDJIがやったとしている。DJIの拠点である深圳で豊富な多様な部品の寄せ集め、安く作り、量産に成功し、品質も向上させ、他の追随を許さない存在とも紹介している。そのために、DJIは今ではスウェーデンや日本に研究開発拠点をもうけているようである。

 結果、日本での政府による国産メーカー育成努力により、ドローン生産分野の新規企業参入も行われているが、価格のみならず品質面でも「現時点では彼我の差は大きい」という経産省のぼやきも紹介している。そして、結論として、「世界が中国に生産を移転してきた帰結と言える。ひとたび先行されると、もはや追いつくのは難しい」と締めくくっている。

 

 これを読んで、まず疑問に思ったことは、拡大するドローン産業で先頭を行くのが、中国企業群ではなく、何故中国の1メーカーであるDJIなのか、という点である。

この記事は、DJIが生まれた背景は、深圳の部品産業集積としている。そうならば、もっと多数の中国系メーカーがドローン産業をめぐって存立しても、ちっともおかしくない、ということになる。しかし、実態は中国のメーカー群ではなく、中国の2006年創業のDJIという企業1社が世界シェアの7割を占めているのである。DJIは中国企業間の激しい競争をも生き抜いたドローン市場における覇者であり、新分野に群がる中国企業一般ではない。

DJIによる世界市場制覇にとって、中国の環境は必要条件であっても、十分条件ではないのである。現状での中国内外での積極的な研究開発投資に見られるように、DJIの持つ技術革新への志向とその方向性等が、中国内他企業との差別化をも成功させ、中国企業間での競争の覇者としてのDJIを生んだといえよう。だからこそ、深圳の部品産業基盤をたとえ活用できたとしても、他の中国内(外)の企業が、DJIとのドローン開発競争に伍していくことができなかったのであろう。このように考えられる。

さらに、ここで全く言及がないのが、2006年創業のDJIにとっての最初の市場についての議論である。私自身、DJIについて調べていないので、全くの推測になるが、民需用ドローンの市場としての中国市場の大きさの持つ意味、DJIが発展し得た当初の主要市場としての中国国内市場の意味が言及されていない。形成当初のDJIにとって、中国国内市場の巨大さは、中国国内他企業との競争に勝ち量産を達成し、圧倒的な価格面での優位を実現するためには、決定的な意味を持ったであろう、と想像している。結果としての量産ゆえの価格競争力、そして独自技術の開発の双方で、中国内(外)のドローンメーカーに対し、基本的な部品の利用可能性の共有にもかかわらず、DJIがグローバル市場の覇者となったと言える。

さらに、覇者になったのちでも、世界に研究網を張り巡らし、ドローンメーカーとしての差別化努力を続けている。その結果が、現状での世界シェア7割という結果を産んでいるのであろう。このような意味で、見出しの「「部品大国」価格も品質も追随許さず」というのは、一面的という意味でミスリーディングといえよう。繰り返すが、「部品大国」を利用できるのは、中国内(外)の企業共通であり、特に深圳の他の企業であれば尚更である。DJIに限られたことではないはずである。その中で、なぜDJIという1社に集中することになったのか、この点も議論する視点も不可欠であるといえるが、このことは「部品大国」という中国の状況それ自体から全く出てこない。

繰り返すが、覇者になった中国企業にとって、巨大(化しうる)市場の中国という自国市場での激しい競争、特に同じ条件にある自国企業間の激しい競争の中での差別化努力、その結果としての競争相手の駆逐排除、これが極めて重要なのである。だからこそ、生き残った覇者としての中国企業の多くは、国際市場へ進出し、さらには海外直接投資を先進工業国に対しても行い、その存立を拡大していくことが可能となっていると見ることができる。かつての日本の乗用車産業におけるトヨタ自動車がそうであったように。